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夜明けの星を待ってる

始発電車まばらな幸せ:マイブームはキュウレン・あんスタ

結婚したい気がしている


私が彼氏と出会う話を聞いてください。

彼とは、大学に近い映画館で出会います。
見たい邦画があったんですが、誘っても誰も来てくれなくて、私は一人で観に行きます。
変な時間なせいか、人が少ない映画館のロビーを歩いていると、後ろから声をかけられます。
「なに?」と思わず怪訝な顔をするんだけれど、
振り返ると同い年くらいの、襟足は短めだけど前髪は重めで、色は暗めの髪の、池田純矢さん似の彼が半券を私に差し出して言うんです。

「落としましたよ」

私は慌ててお礼を言って、頭をペコペコ下げます。
彼はニコニコ人の良さそうな笑みを浮かべて、
「その映画、僕もこれから見るんです」
と言います。私たちは成り行きで、そのまま一緒に劇場に入りますが、彼が後ろの方、私が前の方でもちろん席は離れています。
もう一度言いますが、変な時間なので人はまばら、私の両隣は誰もいません。

その映画がまた泣けるんです。

もう見てる最中から涙が止まらなくて、誰も周りにいないのをいいことに、私はわんわん泣きます。
最後までその調子で、「いい映画見たー」「DVD買おう」と思いながらしばらく座っていると、池田純矢さん似の彼(以下、池田くん)が近づいてきて言うんです。
人がいないのであっさり隣に座れますね。

「大丈夫ですか? 後ろからでも、すごく泣いてるのがわかりましたよ」

そういう池田くんの目元も赤いので、私はそれを指摘します。はにかみながら。
「バレましたか」と彼もはにかみます。
彼はこの映画の原作を書いている作家さんのファンのようで、好きすぎて映画を観るか悩んでいたそう。
私はその作家さんの作品をまだ読んだことがなくて、なので映画から挑戦してみた、みたいな話をします。

「僕この映画、大学の先生にオススメしてもらって……。大学近いんで、帰りに見に来たんです」
「え? もしかして、◯◯大学ですか?」
「そうです」
「私もなんです! 私も先生にオススメしてもらって……」
「もしかして……△△先生?」
「そうです!」

と、いう流れで、実は同じ大学に通っていること、同い年なことが判明します。学部が別なので、今まで出会わなかったんですね。

池田くんは偶然をけらけら笑いながら、「明日は授業ある?」とタメ語で話しかけてくれます。
なので私もタメ語で返します。

「うん。三限からあるよ」
「俺、二限からなんだ。良かったらお昼、学食で食べない?」
「うん! じゃあ学食で待ってるね。二階の窓際あたりでいい?」
「分かった」

余談ですが母校の食堂の二階窓際は二人がけ、三人がけのテーブルが多く、少人数ならここを利用することが多いと思います。

池田くんの分も席を取って、私は窓際の席で本を読んで待っています。
その時読んでる本は間違っても安吾ではないし、Project Itohでもない。なんか、そういう、ハートフルなやつです。
本当はどの辺りの席を取ったか連絡したかったのですが、昨日はそこまで聞いておらず、仕方なく見つけてくれるのを待つばかりです。

二時限目の講義が終わるチャイムが聞こえて、そろそろかなあと私はキョロキョロし始めます。
池田くんは反対側の一番遠い扉から入ってきて、すぐに私を見つけてくれます。まあ私はもう立ってますし、当然といえば当然なのですが、池田くんは昨日はしてなかった眼鏡をかけているので、視力が改善しているのかもしれませんね。

「待った?」
「そんなに待ってないよ」
と、簡単な会話をして、私は文庫本と膝掛けを、池田くんはジャケットと紙袋を席において、鞄は持って食事を買いに行きます。

「今日なんか講義が長引きそうでさ、遅れるって連絡しようと思ったら、連絡先知らなくて焦った!」
「私も思った! どの辺の席取ったか送ろうとしたら、知らなかったの」
などと話しながら、食券を買って、カウンターに並んでる間に連絡先を交換します。
池田くんのLINEのカバー画像は、女の子を含めた5人くらいでふざけている写真です。
彼のお調子者な一面が垣間見えます。

「今日ご飯誘ったのはさ、迷惑じゃなければね? 迷惑じゃなかったらでいいんだけど……」
彼がそうおずおずと紙袋から、昨日見た映画の原作本(ハードカバー)を取り出します。
「良かったら、読んでみない?」
「え!? いいの!? ありがとう! 読むね!」
私は素直に喜んで借ります。
「えっと……実はまだあるんだよね……」
と池田くんが持ってきた紙袋の中身が全て本であることが発覚し、私は笑いながら全部借ります。
彼は食事中にその眼鏡を曇らせたりして笑い合います。メニューはラーメンかうどんでしょう。

こうして、池田くんと私は友達になり、それは大学3年の終わり頃でしたが、ぜんぜん結婚までたどり着かないし、一生たどり着く気配を感じないし、仕事中に考えることではないし、始めたばかりのブログに書くことではないし、心が病むかと思いましたので今日はここで終わりです。