男が女を守るっていうのは、間違いなく正義だ。
変若水を飲まないということは、羅刹にならない。
羅刹にならないということは、吸血衝動がない。
吸血衝動がないということは、薄ミュにおけるキスシーンのくだりで吸血を伴わない。
皆の者ーーーーーーー月9じゃーーーーーーー!!!!
(月9ではない)
思い返せば昨年夏、原田篇が発表された時の耳をつんざくような歓声の中、ぼろぼろと泣いていた私たちもまた、悲鳴にも似た歓声を上げた。
来るなら来いと思っていたが、本当に来るとびっくりするものだ。
三馬鹿(藤堂、原田、永倉)のうち二人(藤堂、永倉)が前回より新しいキャストを迎えた。猪野氏のブログはとても泣ける。
https://ameblo.jp/hiroki-ino/entry-12162336641.html
薄桜鬼って儚いコンテンツで、なんかとてもキャス変する。踏み台にされ、大事にされ、ここまで漕ぎ着けたのだろう。
さてミュージカル薄桜鬼の場当たりです。この公演をもって全ルート攻略。2012年からの長い旅。自分に大切なもの、最高の出会いをもたらしてくれた愛すべき作品。皆さんにありったけの感謝を込めてこの2日間、丁寧に場当たりしたいと思います。
— 毛利亘宏 (@mouri_shachu) 2017年4月25日
私はその歴史の後半しか知らないのだけれど、この目で観ることができて本当に良かったと思う。
上がった幕はやがて降ろされなければならない。
原田篇は大千秋楽まで進んで行き、薄ミュというコンテンツの先はまだわからない。
それでも、今この時代に、共に在ったことを嬉しく思う。
ポエムはこれまで。
原田篇だよ!!!!というテンションに誤魔化されるかなと思いながらオムニセブンで購入した納谷くんやとんちゃん、あとなぜか前山剛久氏などなどのブロマイドを眺め、舞台前日の恒例行事であるコットンパックをしながら書いている。
原田は「羅刹化しない」という薄桜鬼におけるベストオブテンション上がるポイントをまるっと無視し、そのぶん千鶴との朝チュンがあり、新八との友情があり、普通の(普通とは)乙女ゲーム感満載である。
私の記憶が確かなら、他ルートにはあった葛藤や抗えない歴史の流れ、変わって行く時代に迎合出来ない隊士みたいなものはほぼ無い。
なんだかひたすらに甘い言葉を原田が言うんだけど、千鶴がそれを千鶴への想いだと断定出来るようになるまで時間がかかって 、で同衾。
最終目標が夫婦なだけあって、完全にラブストーリー。
それで、だ。
薄ミュの醍醐味っていうのは殺陣あり、歌あり、儚い運命の中で成就する恋あり、だと思うんだけれど、原田ルートっていうのは羅刹化しないから安心と信頼の寿命で……。
つまりまあなんて言うか、いちゃつきが多い。はずだ。
生で観て大丈夫だろうか。実家のリビングでラブシーンを親と見てしまった時のようにならないだろうか。
緊張する!
***
観てきました。以下感想、ネタバレありです。
思い入れ is やたら深い。
波はジェットコースター
薄桜鬼のテンプレとして、夜の京の街で浪人に絡まれ→羅刹に襲われ→「あーあ、一くん仕事が早いよね」「俺は勤めを果たすべく動いたまでだ」→「背を向ければ斬る」→屯所で女である事と父親のことが露見、というのがある。
原田篇もあることにはあるのだが、その後池田屋、禁門の変までダイジェストかってくらいの勢いで話が進む。
これ大丈夫? 付いてこられてる? 甲府のシーンとか甲府だって気づいてるかなみんな。
ダイジェストになってるのには確実に原田篇であるからだろう。原田さんの良さは前半には発揮されない。
観るときはこれまでの薄ミュや原作で勉強することをおすすめする。
恋はジェットコースター
原田さんと千鶴ちゃんがずっと一緒にいるんだ……!!
何度も言うが今までのルートは千鶴ちゃんとの間に「羅刹である」「戦に赴く武士である」ということを一枚挟んでいた。それがない。千鶴ちゃんが鬼であるということも最早恋愛のエッセンスにしてしまう原田さんの懐の深さ……。
そして花凛ちゃんの歌が上手すぎる。とんちゃんと二人で歌う時とかもうこれ美女と野獣(映画見た)かな? ってな具合だ。
めちゃめちゃ月9だった。
最終目標はが夫婦の二人は進みが早い。
キスはするだろうとは思ったけれど、まさか同衾するところまでやるなんて。
二人とも歌がとんでもなく上手くて、ずっと聴いてられる。
カテコのヤイサでお互いのことを見て微笑んだりするのだか、それを見てまた私は泣いた。
ファムファタールたるのか
昔はそんなこと考えなかったが、原田さんと永倉さんという親友が分かれる原因に、千鶴ちゃんがいるってことにやっと気づいた。
原田ルートの千鶴ちゃんは「責任を取らなくては」という強迫観念に苛まれているから、「魅惑の女」って感じじゃないだけだ。
思いきり抱き寄せられると心
あなたでよかったと歌うの
愛のかたまり KinKi Kids
夢に見し光を信じてひさかたを仰ぎて
抗えぬ時代の刃に
傷ついて倒れてなお
夢に見し光を信じて
ひさかたを仰ぎて
土方さんが近藤さんと見た馬鹿げた夢が、原田さんと千鶴ちゃんの恋とは平行に描かれている。
まさか、土方さんが最果て(函館)まで行き、風間さんと決着をつけるシーンをやると思わなかった。
確かに、原田さん絡みでは新選組の他のみんなの大河ドラマはあまり描けない。だから独立して描いたのだろう。
ぎゅっと詰まった中に、舞台が二つあるみたいだった。
原田さんの戦いを描いているのに、これでおしまいと言わんばかりのいいとこ取りだ。古い曲を新しい歌詞で歌っている現行キャストの姿に泣いた。ヤイサといえばいつものヤイサなのだが、今回歌詞を変えて最後、土方と風間の戦いの前に歌う。
ここの泣けるポイントは二つ。
一つは羅刹として戦う沖田慶彦はちらりともそちらをみないのだが、その肩に近藤さんが手を置くところ。
二つ目は羅刹として戦い抜く覚悟を決めた藤堂つばさが山南輝馬と顔を見合わせて、胸のあたりをギュッとするところ。
沖田さんや平助くんより先に死んでしまった二人も、仲間として共にある。
前半はそんなことないのだが、原田さんと永倉さんが離隊してからは特に顕著だ。風間さんが洋装になった姿を見てたちまち泣き始める勝吾担の友人が面白い。
至誠にして動かざるものは未だこれあらざるなり
不知火ーーーー。
不知火はいいやつだ。嫌いだ、取るに足らない、ちっぽけだと言いながら決して人を見限らない。
柏木さんが言っていた。「斎藤篇は端っこで終わったのに、今こんな真ん中にいる」と。
すごいことだと思う。
今、もう斎藤篇からいるのは柏木さんだけになり、きっとその想いもひとしおなのだろうと、推察するばかりである。
魂を信じない不知火さんを演じる柏木さんの中には、初演から受け継ぐ誠がある……(ポエム)
初演メンバーがたくさん観に来ていた時のカテコ、みんなを探す柏木さんの姿が誇らしかった。
泣きそうになるからこういうこと書くなよ〜〜。
おもしろき こともなく世を おもしろく すみなすものは 心なりけり
「変わらないものをこそ、信じている」
絶賛させてください。
納谷くんが最高でした。
今までの斎藤さんは、粘り強く、したたかで、心に全てを秘めて内省していく斎藤さんだったと思っている。松田氏と橋本氏の「斎藤一」はとてもよく似ていて、まさに「変わらないものをこそ信じている」斎藤さんであった。
納谷くんは、しなやかで、爽やかで、美しい斎藤さんであったと思う。「変わらないもの」を信じるだけではなく、変化を受け入れ、自らも変化して行く。そういう斎藤さんだった。
松田氏と橋本氏が内へ内へと押し込めるように演じていたのと対比されるように、納谷一くんが持つある種オープンな外向きの力が初めて沖田さんに向かう時の話は次のセクションで。
納谷くん、とても強かった。小夜で初めてお仕事を拝見しとても驚いたのだけど、やはり納谷くんの身のこなしは眼を見張るものがある。
素晴らしかった。本当に。
Patchに行きたい、心の底から思う。
「Give me the power change the world 」
新曲祭りだった。当たり前なのだけれど、新しい話のわけだから、新曲書き下ろしが多いわけだ。
でもそれは原田さんや千鶴ちゃんが中心だった。
平行に描かれている新選組パートでは、歌詞が少しずつ違う名曲がたくさん出てくる。
一番泣いたのは「Give me the power 」である。
今回、期待していた双璧感が結構薄い。序盤は特に。
でもこんな記事を書いたくらいには、双璧に期待していた。
http://aoionon.hatenablog.com/entry/2017/04/14/211249
そこで不意にやってくる、藤堂篇で双璧が二人で歌った「Give me the power 」のイントロ、そして沖田慶彦の歌い出し「こんなの、悪い夢みたいだ戦えないって」……。
藤堂篇の双璧は、割とメサイアだった。松田氏から橋本氏になったことで、ちょっとみんなの思い入れが薄れてしまったくらいのものだったと思う。二人で歌い、二人で戦う、千鶴ちゃんの介在しないステージという点では救世主たり得た。
こんなことを書いていた人間には刺激が強い。
正直、曲が聞こえた瞬間から涙が溢れてきた。
今回割と沖田さんは孤独だ。土方さんが差し伸べた手を突っぱね、一人病を理由に残され、千鶴に救われるでもない。これは、原田篇なのに沖田さんのことを描いてしまったが故の孤独で、「気づいたら変若水飲んでた」くらいの感じで描けば客は孤独すら感じなかったのだろうと思う。
今回、沖田さんに戦うことを決断させたのは、斎藤さんだった。
沖田慶彦は土方岳を殴った後にこう言うのだ。
「僕は先に会津に行きますよ。一くんもいるみたいだし」
沖田慶彦は納谷一くんに触発されて、追い、戦えるのだと証明しようとするのだ。
戦うことを諦めかけた沖田さんの心を救ったのは、納谷一くんの持つ外向きの力だと、感じないだろうか?
こんなの、双璧として最高だ。
「鬼としての名をくれてやろう」
元土方、現在鬼の佐々木千景、アニメだった。
ゲームから抜きでてきてそのまま動いてるみたいな。
わざわざたぶん、声を寄せているのだと思う。そういうの別に、いらないと私は思っている。だって演じているのは津田健次郎ではなく佐々木喜英だ。ヒデ様の風間でいいはずだ。
でも、津田健次郎に似ている、似せていると感じた時、同時に感動した。
美しかった。
ヒデ様の風間で良いと思ったが、これがヒデ様が表現する風間なのだろうと思う。原作に寄せることもまた、手段の一つでしかないのだろう。それが一つのリスペクト、表現なんだなと。
土方を演じていたヒデ様が、黎明録で鬼になる覚悟を決めたヒデ様が、鬼として、松田岳という自らの後の土方に言うのが、なんともエモーショナルである。
羅刹というまがい物の名は、貴様の生き方には相応しくないようだ。
貴様はもはや一人の鬼だ。
貴様の存在に敬意を評して名をくれてやろう。
ーー『薄桜鬼』だ。
そして二人で歌う。
「鬼として認められる為に〜」「良いだろう全てを〜」
エモーショナルすぎる。
そういえば、初演メンバーがたくさん観に来ていた回の演技は、みんなより熱くなっていたかもしれない。
「俺がいないとダメすぎだからな!」
木津つばさくんと福山翔大さんがとても良かった。
今回、原田篇ということでガッツリ油小路を描いているのだが、「藤堂つばさが飲む変若水」はなんだかこれまでの羅刹化とは重みが違った。
藤堂篇は主人公だった。でも今回は永倉さんに新選組という組織に対する違和感を与える為に羅刹になるようなもので、千鶴もいないのに救われるわけがない。
救われるわけがないのに、年若い藤堂つばさくんが羅刹化するという、老婆心直撃のストーリー。
元気な彼を見たいときはこちらの番組を見るしかない。
永倉さんにしても、ずっと一緒にやって来た原田さんに負け、笑顔で二人を見送るシーンがあまりにも切なく、泣けた。涙ぐむ声で原田さんに問いかける永倉さんの背が、切なかった。
原作通りの、二人を抱き寄せるシーンがとても良かった。
とても良かった。二人が新しいキャストで、本当に。
和睦しないスタンス
山南輝馬が不穏。
あれだけ羅刹化したときに、苦しむのではなく狂う演出になったのは今回初めてだ。山崎さんも、苦しむというより狂っていた。
山南さんは少しずつ狂い、ガムシャラに、手段を選ばず生き残る術を探している。意思と関係なく動く腕を抑え込み、笑い、糸の切れた人形のように動く山南さんがマジで怖い。
そしてそのトドメを刺すのが風間さんなのだが、刀ステでは兄弟だと今更気づいた。
推しの話をさせてください
最高だった。
歌も演技も上手くなっている。確実に、上手くなっている。上手くなっていると思う。贔屓目だけど上手くなってる。え、上手くなってるよね? 不安になってきた。
今回、労咳が露見するのは千鶴ちゃんに対してではなく土方さんに対してなのだが、故に原作通りのセリフを口にする。
命が短くても長くても、僕にできることなんでほんの少ししかないんです。
今までの沖田慶彦は、儚く、桜にまかれそうで、そのまま消えてしまいそうな雰囲気があった。
今回は、生に、生きて戦うことに固執している感じが強く打ち出され、内面の葛藤や覚悟が感じられた。
素晴らしく良かった。
近藤さんの死後、土方さんに詰め寄るシーンがある。これまでも激昂したそのシーンの演技は鬼気迫るものがあり、「土方さんを許さない」という決意が爆発していた。今回は、どうして、なんでと問いながら土方さんの肩に額を載せ、泣いている。
土方さんもまた、そんな沖田さんのことを抱きとめる。
二人は、近藤さんという大切な存在を亡くしてしまったために、寄り添うのだ。
その時の涙をこらえる沖田慶彦が最高である。まぁ結局殴るんだけど。
全体的に、殺陣がより早く、そして手数も多く、推しやヒデ様が好きなあのクルクルも多くの人がやっており、とても華やかなことになっている。
カーテンコールでみんなに迎えられる原田啓介の姿を見て、それは階段を降りて両腕を広げる座長の姿で、「やっぱ座長公演ってこうあるべきだよね」と泣いた。
やがてあなたが0番まで階段を降りてきて、両腕で喝采を受け止めてくれる日が来る。Kとか。信じてるぜ。
原田さんの戦いの他に新選組の戦いも描いているから、舞台上でみんながみんな戦っていたり、いくつ目があっても足りない。
最初に書いた通り、スピードは早い。特に前半は。その点では「分かっている人向け」の舞台かもしれない。
でも勉強してでも見る価値があると思う。
これまで薄ミュが積み上げて来た歴史が、怒涛のように繰り広げられる。
感極まる。
感極まるを得ない。
例えばここで終わることになったとしても、美しい幕引きであることは確かだ。
上がった幕は降りなければいけない。
いずれ、いつかまた咲く、満開の桜を願って。
千秋楽お疲れ様でした。私もこの作品が大好きだ!