夜明けの星を待ってる

始発電車まばらな幸せ:マイブームはキュウレン・アナデン

日記

生まれて初めて歯が痛い。

 

「?」という顔をした人もいることだと思う。だが今一度言うが、生まれて初めて、歯が痛い。

これまでの人生で虫歯になったのは一回、それも乳歯でそのあとさっさと抜けた。以後、歯茎の血流の不安はあれども、虫歯とは無縁の日々を過ごしてきた。実に、十年以上。

このまま逃げ切れるーー。私はその自信にあふれていた。このまま逃げ切り、85まで自分の歯で煎餅を食ってやると。

 

ある時、異様に歯茎が腫れていると思った。だがそう思うだけで、劇場と弊社は交互に私を追い立て、気づけばひと月……もしかしたらもっと、経っていたのかもしれないが、とにかく幾日か過ぎていた。

 

あんまりに痛むので、「痛え、痛え」と家族にちょろりと口の中を確認してもらった。ありがとう家族。家族と言えど口の中など確認したくはなかろうに。

 

「親知らず生えてるよ」

 

まごうことなき、絶望であった。前回の歯科検診ではなんともなかったはずだ。

 

親知らずを抜くのは、人生の一大イベントである。親知らずに良い話を聞いたことなど一度もない。まずは聞き込み調査だと話を聞いた。以下はその記録である。

「でっかいペンチみたいなので抜く」「抜けない時はハンマーで砕く」「麻酔の注射がそもそも痛い」「麻酔されてるからうがいも満足にできない」「麻酔切れたら地獄」「すげえ腫れる」……

生まれて初めての歯痛に震える女に、伝えたいことはそれだけなのかお前らこのやろう。

 

あぁ、私の親知らずよ。とんでもない生え方をしているらしい私の親知らずよ。頼むからスムーズに抜けてくれ。頼むからハンマーで砕くようなことになってくれるな。というかなんで生えてきたんだ。最後まで歯茎に埋まっていればこんなことにはならなかったしお前も85まで煎餅を食べれたというのに。

 

こうなったら親知らず抜歯レポしてやろう。そうでもしなければ発狂しそうだ。気を確かに持ち、抜歯に臨むしかない。目を瞑れば煌々と光る診察台のライトが見える。絶対に先生から鼻の穴が見えている。鼻の穴だぞ。人様に鼻の穴見せてんだぞ。どんなストレスだ。

 

だいたい本当に歯が痛いのかわからなくなってきた。

この歳にして初めての歯痛ですでに感覚が狂っている可能性もある。もしかしたら大した痛みでないものを「痛い痛い」と無様に言っている可能性もあるのではないだろうか。

 

いや、やっぱり痛い。

 

そうこう言ってる間にも抜歯の時は刻一刻と迫り、もはや目前にある。

 

親知らずを無事抜歯し、咀嚼に不自由を感じなくなった暁には、フランスパンを食べる。

フランスパンを食べるぞ。