サニーサイドアップフォーチュン

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Vシネ『仮面ライダーグリス』感想

ビルドが始まったのが2017年9月3日、終わったのが2018年8月26日。

もう一年も経ったのである。ジオウも終わっているのだから当たり前なのだけれど。

というわけで、Vシネ『仮面ライダーグリス』の感想記事である。ネタバレはたくさんしているので気になる人は読むのをやめてほしい。

前回、私はだいぶ「納得がいっていない」人の目線でものを書いており、反省するところも多々あるわけだけれど、おそらく書き直してもこうなるだろうと思う。今でも納得がいっていないし、『Vシネクローズ』のことを最高だったと思う人は前回記事を読まなくていいし、何ならここから先を読まなくてもよい。「NEW WORLD」と銘打つ以上、私の気になるポイントをいくつか掘り起こしてしまっているからだ。

だけれども、私は『グリス』のこの物語を非常に好感をもって受け止めているし、とても面白かったと表現するだろう。

それは、私としてもとても喜ばしく、そして望んでいたことだった。

テロリスト、襲来

テロリストというのは、まずシステムをハッキングしやって来る。そして大抵はモスグリーンの戦闘服を身にまとい、髪は長いか短い。テロリストには国際情勢上利用価値の高い政治家の協力者がいて、だいたいそいつは死ぬ。そして世間に電波ジャックしたテレビ画面から、宣戦布告するものなのである。神門シンみたいに。

このテロリストが今回の敵というの、とてもグリス向きだと思った。大義と正義と信条をもとに戦ってきたグリスの初登場――つまり、北都戦争篇にとって、異なるイデオローグ同士のぶつかり合いというのは切っても切り離せないものだと思う。

そうやって登場したグリスの敵が、そういうテロリズムとして想定されることは、とても理解できると感じた。

そしてこの物語、私もしかして天王洲アイルや池袋なんかで繰り返し観てきたんじゃないかな……と思っている。ねえ、いつき*1。そう思うでしょう?

今回のテロ組織「ダウンフォール」めちゃくちゃおいしいと思うのだけど、どうしてこの人たちがクローズの敵ではいけなかったのだろうね。龍我が救ってあげられなかった人体実験の犠牲者も一員として描かれていれば、歪んでしまった思想に対して龍我がまっすぐに責任を負おうとする姿も描けたろうし、テロリズム的なエボルトに起因する破壊衝動を乗り越える姿もきっと描けたろうし、何ならサービス的にエボルトが再登場して野に放たれるなんてことは起きなかったんじゃなかろうか。

まあわかってる。『クローズ』で記憶を取り戻す以上、そこで速攻テロ組織が出来ていたらそれは治安がヤバすぎる。だからもう少し別の条件付けで「記憶持ち」の設定があったらできたのにと思う。わかってる、言うだけは簡単だよ。

上映する順番にも意味がある

ドルヲタが傷心旅行に行くというギャグにも意味がある。それがとてもよかった。

『ビルド』という物語が「こういうありふれた、けれどかけがえのない日常を守るために」戦ってきた物語なわけだから、それをゆっくり見せてもらえるのもいいし(何せ敵はテロリストだ)、美空が「今回は一海のヒロインです」というのを紹介されている感じもいい。

順番に意味を感じられるのが好きだ。

しかし、『クローズ』準拠のため、記憶を取り戻す人選の雑な感じが疑問である。やっぱりそこが気になっちゃう。

あとはカフェがクッキングカーなわけだけど、そこに「ああ、もうあのセットはないんだな」ということを思い知らされてショックだった。博物館とか作って順番に格納していったらいいのに……。わかってる、言うのは簡単だよね。

なんといってもカシラと三羽ガラスの絆

デート(ではないが)にもついてきてくれ、大海にも一緒に漕ぎ出し、カシラが迷えば叱咤激励する優秀な部下(?)たち。そして3人がいなければダメダメであることをしっかり自覚しているカズミン。

自己犠牲の蔓延するビルド社会の中でも、純粋な信頼が関係を作っている感じが彼らの悲劇をより悲しいものとしていて、平和な世界になってからはそれがちょっと可愛らしくもあって、好ましい。なんていうか、テレビシリーズの戦兎くんと龍我のようなドロッドロの共依存的関係性ももちろん大好きなんだけど、カズミンと三羽ガラスにはもっと爽やかなものを感じる。恩義や忠義。支えあうこと。

そういうものをよく活かした物語なので、テロリズムと相対するという非常に暗い敵でありながらも、どこか軽やかな雰囲気をまとっていてとても見やすいのだ。

青羽の「その色したビルドが一番嫌い」という言葉、わかってはいるけれども戦兎くんの罪のことを思い起こさせるところが、ビルドが技術というものとのあり方を描いて来たことをよもや忘れてはいないなという感じ。

プロテインの貴公子」

なんで寝ぼけてにやにやしながら「プロテインの貴公子」なんて名乗ったのかな万丈くんは。

これで付き合ってたら死ぬ*2な、とぼんやり思った。香澄さんはどうしたんだよ。結局もう一人の万丈はどうしたんだよ。

私しつこいかな? じゃあこれだけ言わせてくれ。

戦兎くんを一人にしないでくれ龍我、頼むよ。

さだめとして仮面ライダーを選ぶということ

このセリフ、泣きそうになっちゃった。もしかしたら泣いてたかも。

なんていうか、仮面ライダーになりたくてなった人って多分ビルドの世界では存在していないというか。兵器、防衛システム、そういうものに位置づけられるものであって、戦うしかなかった人たちが選び取った手段であって、それを今になってもう一度示されるのがありきたりだが泣けた。

 愛と平和のために、と臆面なく言うヒーローだから、このシリーズが私は好きなのだ。

アクション

グリスブリザードで乗り込んでいくときのアクションが本当に格好いい。ペアのフィギュアスケートのようにダイナミックで身軽な、それでいて、カズミンのチャラさ(美空談)を感じられるカズミンっぽいアクションでめちゃくちゃよい。

ヒロイン

ダブルヒロインが3号4号ライダーとくっつくという前代未聞の展開。

でもなんか散々「そうなったらいい」とか言われてきて、実際にそうなると「幸せになれよ」と思うから人間というのは現金だ。由衣ちゃんにはそう思わなかったのに。

「自分を助けてくれた人と」というのは美空ちゃんも同じかもしれないが、それを恣意的であると感じるか否かにはやっぱり積み重ねてきた日々の差があって。たとえ白目むきそうになるくらいタキシードに苛立っていたとしても、これまで向けられてきた好意について憎からず思うことが美空ちゃんにもあったんだな、となるのだ。紗羽さんも同じだ。内海さんに対する責任のあり方に悩む幻徳を見て思うことがあったのかなとか。

彼女らが報酬として消費されるのは嫌だ。けれどその1年の流れがあるからこそ、受け入れることができる。1時間そこらで構築された(してないと私は感じているけど)関係性じゃないからそういう恋愛的な成就も理解できるし、なんていうか、まあありだよなって……。うまいこと言えないんですけど、「わかる」んですよね、本当にバカで申し訳ないけどうまく書き直すことが出来たらここは直します。

今作における戦兎くんと龍我

いや忙しかったんだろうなと、前回も……何ならフォーエバー撮影くらいからひしひしと感じている。不自然にその場にいないこととか、撮影場所とか。そういうことから。

ベストマッチ的なことについて言葉で示されることはないが、内海さんの提案に呆れ顔で応対する二人や、変身ができていないことをお互いの姿で確認するところとか、葛城親子について優しい笑顔で語る戦兎くんに「……戦兎」と優しい笑顔を向ける龍我とか、そういうところは非常に良かった。

ハザードレベルを上げやすくするために死んだことにしとけ、という戦兎くんの最悪なところ、本当に最悪で笑っちゃったな。

舞台挨拶に犬飼くんいなくて寂しかったよ。

これで最後だと思ったら涙出てきた

毎度のことだが、十分に通ったとは言えないだろう。

だけど、「まあいいか」と思える程度には足を運んだ。そして、これで終わる。もちろん武田航平ナイトが発表されたり、これから冬映画にゲスト出演する時代も来るかもしれない。なんかマッドローグとかで物語が作られちゃうかもしれない。でもここで終わりなのだ。いずれにせよ。

そう思ったらもう、エンドロール見てるうちに涙出てきちゃって。

いやー、好きだったなあ。

ビルドって、たまに見ているこっちがヒヤッとするようなところがあったりして、心配になるところもあって。それでいて「正義のヒーロー」にこだわりぬくまっすぐなメッセージもあって。そういう絶妙なバランスの上に成り立っているような気がして、見届けないといけないと思わされたというか。

完璧な物語などない、完璧な観客がいないのと同じだ。愛着は、そういうものの上に成り立つのかもしれない。

舞台挨拶、写真撮影が観客にも許されていて、一眼をもっていかなかったので普通にカスカスのスマホカメラだったのでここに公開することはしない。高画質の画像はマスタニムに任せます。

 

*1:その男の名は、加々美いつき。

*2:もちろん、私がだ。