サニーサイドアップフォーチュン

映画、特撮、演劇、ダンスボーカルグループ

『ピカレスクセブン』と『only silver fish』感想

とってもポエミーな感想

 

ピカレスクセブン

めっちゃくちゃに毛利さんっぽいなと思った。

例えばマクベスの死に方、完全にミュージカル薄桜鬼だった。彼が演ずる役が階段の上に立ち、彼を討つ役目のキャラクターが階段の下で客席に向かって刀を振り下ろす。マクベスは風間で、上演されることのなかった永倉新八篇だった。(他に言ってる人もいたので良しとする)

ありそさんがリチャード王であることや、ピーターパンを他人と思えない井俣さん、キュータマダンスの春日局などなど、これまでの社中作品や毛利さんの携わった作品を観てきた人や東映にどっぷりしてきた人にとって微笑ましいシーンがたくさんある。

登場人物の立場がくるくると入れ替わるところもとても毛利さんっぽい(悠久を思い浮かべていただくと良い)のであるが、なにより毛利さんの描く男同士の関係性は、相変わらずである。殺されるのであればそれだけの価値のある男に、救うのであればその男の生を全て背負って……死が二人を分かつまで続けられる得物に乗ったやりとり、非常にめんどくさい男の関係性ここに極まれりといった風情である。

だってマクベスの孤独を救うのが、褥から地獄まで寄り添うジャック・ザ・リッパー(女性です)ではなくて、孤独という生の檻から解き放ったイエミツなのだから。

あと単純な話として、東映の元ヒーロー(役者)たちが極悪人として見参するところにテンション上がる。二律背反。

 

ただし、求心力はこれまでと比べ物にならないくらい弱い。

シーン一つ一つキャラクター一人一人のパワーであって物語の整合性はないと思う。説明の足りない成田良悟の小説があったとしたら、それはきっとこんな感じなんだろうなと思う。

あまりにも知っているべき前提条件が多すぎるし、イエミツとマクベスのラストバトルで全てを解決しようとしすぎている。ミスリードとして活きてよかったはずのもろもろ(黒タイツとか)もそのままであって、超自然的な力の近くにいる良子さんというのもテンプレ。

社中20周年、東映コラボ……なにも一緒にする必要はなかったのにね、とは思ってしまった。

 

なんていうか、秀吉には秀吉の織田信長があり、家康には家康の織田信長がある。家康にとっての織田信長それは、永遠に憧れるべき信長。そういう感じからのヤイサヤイサ、ディベード挟んでヤイサ、そんな感じの舞台。

で、やっぱりいろんなところに好みの色々があるんだよなあって思う。

 

・only silver fish

 丁寧な作品だったと思う。

ミステリーなのでネタバレは避けたいのだが、無理だった。

 

ファンタジーの可能性をチラつかせながら全くファンタジーじゃないところに、非常に好感を持った。

丁寧に、西田色は最低限に、ミステリーとして物語を描くために注意を払って作られたのだろうなとわかる舞台であった。とても引き込まれた。集中して見ることの出来る、ミステリーであるから全ての情報を拾おうとするのは当たり前かもしれないが、それを問題なくこなせそうでやはり術中にハマるような、そういう舞台だった。とても面白かった。

 

それでいて、とても古典だった。これもまた、良い意味だ。

自然に集まった男女の中から自然発生的に事件が起きるのではなく、意図されたある種作者の恣意的な面々が集まっていても、それが「そういうものであるから」受け入れられるのが古典だとして、OSFはそういう意味で古典であったと思う。そしてマシューを主人公であるとしておきながら群像劇としてマシューの視点に観客を固定させなかったことで、種明かしするまでの緊張感を保てたような感じもする。いっそ探偵でもよかったと思うけど、それこそあまりに作為的だろうか。

 

愛の重い松田凌、好きだなと思う。重すぎて受け入れてもらえないまま孤独を深めて行く松田凌という役者が良い。

私はラトーヤがマシューをひっぱたいたこともよくわからなかったのだが(孤独なのだから他人を巻き込むのは当たり前だろう。巻き込まれた側としてひっぱたきたくなる心情は理解できる)ケビンがマシューを「狂っている」と揶揄(揶揄で表現があっているかどうかは自信がない)することに関しては全く理解できなかった。

いやいや、全ての引き金はあなたの妹でしょ。誰が狂わせたか明確でありながら何もしてこなかった、実家の金を食い潰した可能性すらあるあなたに言えた事じゃないでしょ。と思う。

その反面エミリーには理解を示せるなと思った。エミリーはわかりやすいから(そのように演出されているから)。不安に思っているからマシューに問うし、ロイと居れば滲み出ちゃうし。

 

映画がどのようにこの舞台の印象を変えてくれるのか、楽しみにしていようと思う。

これから解決されるのかもしれない疑問として、冒頭のマシューが本の内容を自分に置き換えてなぞるシーンで、「マーティン」というのは本の主人公なのか、「メアリ・クリスティ」というのはアガサその人なのか、メモとして残しておく。

 

しかしこんな可愛くない感想ある?

もっとどこの誰々がどうとか書けばよかった。

 

 

追記

愛の重い洋二郎さんも最高だなと思った。