夜明けの星を待ってる

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映画『君の名前で僕を呼んで』感想

You Tubeのコメント欄見ると字幕で見ろみたいなの多いけど私のように声優に釣られる人間もいるからごめんねって感じ。


『君の名前で僕を呼んで』日本語吹き替え版予告

このブログを読んでくれているような人は私が日々自由くんのお芝居を「良すぎ」としか言ってないこと知ってると思うけど、まあとてもよかった。その件は後述。

 

映画そのものの話

 この映画で映るものは全部に意味がある。古代ギリシアの彫像、哲学、川の流れ、服、アプリコット。私は別に頭がよくないのですべての意味を考察したりはしないが、探せばきっとみんなその意味について記しているはずだ。やって来た時に着ていたシャツをエリオに渡すオリヴァーも、オリヴァーと心を通わせた夜に着ていたTシャツを彼の居ない夜に着るエリオも。象徴的に何度も現れるアプリコットも。きっと全部。

あまりにも美しい景色の中にあって、エリオは美しい少年である。彼はまた、とても知性的な少年でもある。彼の繊細さやか弱さの、未成熟なその魅力が、知性によってより輝くのだろう。不服そうに、不満そうにしている序盤から、だんだんと解き放たれてそれこそ小さな子供のように戯れる後半まで、ずっとひたすらに可愛い。

この映画はエリオの視点で始まって、終わっていくから、オリヴァーがずるい大人になってしまうのかと思っていたが、そうはならない。多分オリヴァーの背景の含みが、オリヴァー自身という想像を掻き立てるからかな。もしくはわざわざ彼に見せるように扉を開けてるエリオの期待に沿わずに、理性的な行動をとるからかもしれない。だからエリオの目に映ったように、観客にとってもオリヴァーが魅力的な大人、ひと夏の恋になる。

オリヴァーの声が聴こえたエリオの心情に合わせるように、高鳴るピアノのBGMが流れ始めたり、突然切れたり。音楽がエリオの心そのものといった感じでとても好きだったな。

オリヴァーがアメリカ出身で、1980年代だということ。アメリカという土地でオリヴァーが生きていくためには、エリオと共にでは果たせない役目があったのだ。時折見せる突き放したような顔や苦しむ表情に、なんというか、ひと夏でしかない関係何だというのがよくわかってしまって、切ない。あの冬の別れはオリヴァーがアメリカという土地で生きていくために必要なものだった。女性との結婚という選択も。暖炉の火に照らされて静かに泣くエリオの美しいことよ。「君の名前で僕を呼んで」は観る前はエリオのわがままなのかと思っていたけど、そんなものじゃなかった。なにせオリヴァーが言い始めたことで、二人だけのルールで、お互いがお互いの唯一であると示す遊びだったのだから。最後の電話でも繰り返されるその「二人だけ」がなんともやり切れない。

ところで両親も、マルシアも、本当に良い人たちだよね。80年代、同性愛嫌悪だって深くあったはずの時代に、両親はそういった差別なく友人達やエリオとオリヴァーを受け入れていたし、マルシアだって感じ取っていたように私には見えた。そういう環境がエリオという純真(という言い方で良いのかはわからないが)な子どもを育んだんだ。この映画はそんなエリオの視点だから、差別的な視線に立ち向かうみたいなところは描かれないんだろう。母に迎えを頼むシーン、知的な早熟さがすっかりなりを潜めた子どもでしかなくて。可愛らしくそして切なく、あまりにも魅力的だった。

エリオにとって(そして恐らくは、言葉通りオリヴァーにとっても)忘れられない初めての恋になればいいと思う。

 

自由くんの話

「こっち」とか「して」とか、少ない音でとても魅力的に響く台詞が多くて、いやもうありがたいと思った。

大きな声を出すことのない映画だから、吐息で喋るようなそんな響きでとても落ち着く。地声に近く、それよりもさらに抑えられた穏やかな声だ。いつまでもどこか少年のような声だからわからないかもしれないけれど、そんな自由くんも先日32歳になりました。おめでとう。

正直序盤は日々自由くんの声を聴きすぎているので「マジめっちゃ自由くん」と思ったりしてた。でもやはり上手くて、Timothée Chalametの苛立ちとか笑顔とか抑圧とかそういう感情の機微に寄り添うお芝居だったと思う。オリヴァーと二人きりの時は少し高く、両親と話すときはおざなりとも取れる自然体な声で。あの母に迎えをお願いする駅の電話のシーンとかとても良かった。もちろんエリオご本人の芝居がいいのはもちろんなんだけど、泣き声が本当に良い。でもやっぱり私の中の一番は「して」ですね。キスをねだるセリフです。

まあ洋画を吹き替え目当てで観るのはどうなんと言われたらそれまでなんだけど。それまではとは思いつつ、これからもぜひTimothée Chalametの吹き替えはしてもらいたいな。