サニーサイドアップフォーチュン

映画、特撮、演劇、ダンスボーカルグループ

感想『AKIRA』『ラーヤと龍の王国』『Lovely Writer』

最近のエンタメ話です。

AKIRA

インターネットと言えばみたいなところがあると思っているので見ました。私たちが思う近未来とか、近未来SFって言われてるものは結局すべてがAKIRAの模倣でしかないなと思った。それだけ圧倒的に格好良いなと思った。

横向きにブレーキかけて止まるあらゆる作品でパロディされているあのシーンが結構序盤にあるんだなというのは驚きだったし、あのシーン含めたバイクでの暴走がネオ東京のごちゃごちゃした景観と相まってまあ格好良い。圧倒的な作画、風景、動き、それがあの年代感を伴うざらついた感触で(いわゆるエモさとして表現されるタイプの感覚)映像として表現されているのが、ある意味完璧なんだなと感じた。

ストーリーだが、とにかく鉄雄が金田への憧れとコンプレックスをこじらせた結果、「BL?」というような内容だった。鉄雄は金田と同じ養護施設出身で、新入り時代に金田に助けてもらってからずっと彼の子分のような距離で一緒に過ごしてきたわけだが、金田は職業訓練校に進学して仲間内のリーダー格であり続けるし、バイクも彼にしか乗りこなせないピーキーな仕上がりになっている。鉄雄がそれに憧れているというのは序盤から描かれていて、能力に目覚めてから脱走ついでに金田のバイクを勝手に持ち出し不良に報復される段になっても、理不尽に暴力の対象になっているガールフレンドのカオリのことよりバイクのことばかり気にしている。挙句助けに来た金田に「どうしていつも助けに来るんだ」と喚く。最終的に能力が完全に開花した鉄雄を止めにやって来るのは金田一人で、力が暴走した鉄雄は一時でも寄り添おうとしてくれたカオリではなく金田に助けを求める。なにこれ、BL?

金田が憧れるケイも、カオリも、髪も短くかなり中性的な女の子ではあるけど、ヒロインとして想定されているはずなのでこのような感想でやや申し訳ない。

 

ラーヤと龍の王国


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髪の毛や龍の体毛がひたすらすごい。

ストーリーもとてもよかったと思う。ラーヤとナマーリは時代が時代ならプリンセスなのだけど、二人とも優秀な戦士であり、そして個人である。「王子様なきプリンセスが自立していく」のではなく「ある個人が世界を憂いて行動する」という印象で良かった。

とにかくラーヤとナマーリのお互いに向ける感情が大きく、立場として背負ってるものも多い。国があり、国民があり、生活があり、役目があり、家族がある。あらゆる感情と言い分がありながら、大事なことは信じることだというシンプルなテーマに行きつくのもわかりやすくよかった。

あと殺陣が非常に良い。アジア系の文化をテーマにした作品、韓国映画、日本映画の殺陣の印象に近い。スピーディーでアクロバティック、カメラのアングルも格好良かった。ラストシーンに向けて戦闘バレだけど、ファングに乗り込んだラーヤが逃げ惑う人流に逆らって一人歩いており、たどり着いた先で振りかえったナマーリの後ろに彼女の母親が犠牲になった姿が見えるのなどドラマチックで好きだった。

とにかくラーヤやナマーリの性別を強調しない。口説いてくる男性というようなキャラクターもいなければ、特に絡みなく二次創作でカップルとして人気が出るようなイケメンのキャラクターもいない。

一方で、家族というものを強調し続けているので、そういうものに対して違和感を覚える人はきついのだろうと思った。私のように家族という制度に対して特段思いのない人間は気にならないかもしれないが、出てくるキャラクターはすべて家族を失い家族との生活を取り戻したいと考えている。もちろん世界を救うにあたって家族制度の崩壊を喜ぶキャラクターは仲間になるわけはないのだけど、神話とも感じ取れる家族の描き方はディズニーっぽいなと思った。

仮面ライダーファン向けには、吹き替え版の場合、序盤で仲間になるブーンという少年の声は平成ジェネレーションズFOREVERで久永アタル役を演じていた斎藤汰鷹くんです。

 

Lovely Writer

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タイBL(タイではBLのことはやおいからとってYと呼ばれます)ばっかり見てるのだけど、U-NEXTでのスペシャルエピソードの配信期限が近いのとUWMAに出ていたKao出演ということで見てみました。肝心のスペシャルエピソードはまだ見てないので別で感想書きます。

年下攻めということでみんな好きなやつだなと思って見始めたが、基本的にそれは最後までずっとアドバンテージとして活かされてたかなとは思う。

序盤は割と軽いノリで描かれており、主人公GeneとNubsibの出会いが急に二人の世界だけになったりとか、Nubsibが全く好意を隠そうとしていないあたりなど非常にラブコメディ要素が強い。「BLドラマの撮影」というお仕事ものの要素ももちろんあり、撮影前の初期段階から制作側の希望で原作者であるGeneは撮影現場に出入りすることになるのだが、都度Nubsibが好意を示してくるし、作中ドラマ上のNubsibの相手役Aeyなども絡んできてこのあたりの関係性がいろいろ拗れるのだなとわかりやすい。

だんだんファンのSNSなどの動きが活発になる描写が増え、人間関係も後半にかけてリアリティがどんどん増してくる。まず家族へのカミングアウトとその後の関係修復に一話を使用するし、二人の関係をめぐってSNSは炎上する。カミングアウトを丁寧に描き、両家の父母の動揺の仕方や受容の仕方の違いなど、さまざまバリエーションがあるのは良かったのではないかと思う。この家族に対してカミングアウトする要因の中にはNubsibの兄からそう勧められてというものもあり、そこまでして個人的な問題を家族間で共有しなければならないのかと思いもするが、ある種それがタイ社会の最小単位として求められることなのかもしれないとも考えたし、私が構成員として非常に不出来という可能性もある。Geneの父親はバイでかつて同性の恋人がいたこともあり、GeneとNubsibの関係を認めることで間接的にあの頃の自分の恋愛に決着をつけるに至るところなど、「Nubsib役Kaoの死ななくて済むUWMA*1」の様相を感じた。家族で言い合いになったのち、Geneの兄Japが堂々と父親に向かって「独裁的である」と声を荒げるところなどよかったと思う。基本的に父親という存在以外、ヘテロ男性の上司というものも存在しない。

SNS炎上の経緯はインターネットも最悪だが、常に誰かのファン側からインターネットに慣れ親しんできたものとして、NubsibとGeneの行動は結構きついものがある。

前述のとおりGeneは原作者として初期からドラマに携わり、Nubsibは常に好意を隠さない。Geneも満更でもないし、押しに弱い彼はなし崩し的にNubsibの同居を許している。必然的に二人での目撃情報が多数上がり、肖像権がないも同然のタイドラマなので、写真はインターネットで拡散される。主役カップル営業のはずのSibAeyと並ぶ人気をSibGeneが得ることになり、公式シップ推しとゴーストシップ推しでもめたりとかもする。この時点で結構インターネット最悪じゃないかと思って見ていたが、10話11話あたりのSibGeneの行動もかなりつらい。まず、Geneは放送が始まったドラマを見ている風景をInstagramのストーリーに上げるのだが、そこには後ろから話しかけてきたSibの声が入ったままで、もちろんファンは盛り上がる。SibはGeneにスポンサープロダクトを使っている写真を、Geneの自宅で撮っている。Sibは特にドラマと関係ない個人の撮影にGeneを同行させ、スケジュール後に二人で遊んでいるところを写真に撮られてインターネットが炎上する。二重三重に最悪である。勝手に写真撮ってインターネットに上げるな*2、匂わせSNSするな、関係ないスケジュールに恋人を同行させるな、憶測で盛り上がるな……。また、周囲のスタッフが匂わすな一緒に外出するなと促すのだが、それに対しても「最終的に別れさせるつもりだ*3から抵抗したいSib」と「将来のことや世間の反応を考えると一度距離を置くべきと考えているGene」で非常に大きな喧嘩になる。私はこのドラマの視聴者として「うまくやってこつこつ付き合っていてくれ」という気持ちももちろんあるが、公式シップであるSibAeyを応援する人たちというのはこの『Lovely Writer』というドラマにおける公式シップKaoUpを応援している人たちと重なるわけで、そういう矛盾と、売り出されたrelationshipを勝手に好きになっておきながら、彼ら個人の意思を食い物にするのかというような感情、そうであっても推し(この場合Sib)に「好きな人と仕事がしたいから俳優になりました*4」などと言われたら大ダメージだなといった感情がないまぜになる。

とにかくインターネット最悪描写が上手いのと、カミングアウトを丁寧に描いているのでそのあたりは特に良いと思う。

ライバルであるAeyが当初Sibが好きとGeneを惑わせていたのに、最終的にはGeneが好きと言い出して、彼の感情の説明不足なのか読み取り不足なのか、経緯を理解してあげられなかった。しかも彼の苦悩は解決せず、彼には全く救いもなければ寄り添ってくれる人もいないというあまりに不憫なまま終了する。私はLeoFiat*5の熱心なファンなのでこれはきつい。救われないFiatのことを考えただけで熱が出そうである。

あとはずっと『Lovely Writer』という作品をGeneが書きながら物語が進行していくのだけど、ラストシーンではこれがGeneの書いた物語ではなく、原作者が書いた物語『Lovely Writer』の中の出来事ですという終わり方になり、私はこれが特に好みではなかった。作中感じたリアルさの余韻がないエンディングだと思う。

見終わった後にこれが公開になってて笑うしかない

*1:UWMAではKao演じるKornが同性の恋人を父親に激しく反対されて拳銃自殺する。

*2:勝手に写真撮るなとNubsibがファンに物申すシーンもある。

*3:しかしこれについては正しかった。

*4:NubsibはGeneの小説がドラマ化されるためオーディションに参加した。

*5:TTTS2におけるお騒がせカップル。