サニーサイドアップフォーチュン

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感想『キャロル』『聖の青春』

キャロル


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とても美しいロマンスだった。私はかなりこの映画好きだと思う。

テレーズの可愛いんだけど純朴でちょっとくたびれたような、そういう純粋さにキャロルは惹かれるものがあったのだろうし、キャロルはデパートの中で輝くように目立ち、しかも家庭の不和やセクシュアリティの部分から来るミステリアスで影のあるところが非常に魅力的に見える。

「自分で何も決められない」テレーズが車を運転することなく何度も窓の外からテレーズの表情を撮影するのがとても象徴的な例えだったのかなと思った。またキャロルは基本的に自分で運転するが、アビーの助手席に乗るときはオープンカーで開けている。審問に向かう際の閉じられた車内で運ばれていく姿は、抗えない流れを感じて切なくなる。

キャロルは10年、妻として母として自分を抑えて生きてきて、テレーズはたぶんしっくり来ていないことをごまかして生きてきてて、そういうなんとなく上手く折り合いがついていなかったことがかみ合って恋が進んだのかなと思った。

ラストシーンも含みがあって良い。ハッピーエンドが期待できる。

キャロルもテレーズもある一つの類型にピッタリ当てはまるようなセクシュアリティではないと思うし、この舞台になってる時代の中ではっきりと明言することが実際出来たことなのかなど分からないところもあるが、受ける差別的な行動からどう思われてるのか察することができるのが人を嫌な気分にさせる効果、と感じた。

去年からBLドラマを色々見て、「検閲されるわけでないのに言葉を用いないのはなんでなんだろう」と思っていたけど、明言せず描写や会話から察するということが芸術として重視されてるとかそういうことなんだろうか。説明台詞があまり歓迎されないことの亜種みたいな。誰か詳しい人教えてください。

 

聖の青春


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強烈な不摂生描写で私も気を付けよう(健康に)と思った。

村山さんは子どものころから病気を患っていて、おそらくもともとそんなに長生きできると思ってなかったのかもしれないが、さらに膀胱がんが見つかったことによって将棋に生き急ぐのがしんどい。その一方深酒をしたり、さらに寿命を縮めそうな行動をとるところなど、よほど将棋が苦しかったのかと思う。

とても静かな映画で、将棋盤に駒を置く音が高らかに響いたり、指先がアップになるところが良い。村山さんの爪が駒を触る人差し指と中指だけ整えられているのも印象的だった。のち理由として「生きているものを切りたくない」と明かされる。辛すぎる。

そういう、何かに命を懸けるあり方が強烈な映画だ。最終的に村山さんは亡くなってしまうのだけど、感動的にそれを描くのではなくて淡々としていてそれもまた良い。何かに身をやつす狂気っていうのは本人にしかわからないと思うので、殊更それを盛り上げて、人が亡くなることでお涙頂戴することもないところに好感を持った。

対局を全部撮るわけにもいかないのはわかるし、服装やら環境音やら読み上げの声などでこちらが察するしかないのだけど、全体的に細かいところから大きなところまで時間の流れがわかりにくい気がした。