サニーサイドアップフォーチュン

映画、特撮、演劇、ダンスボーカルグループ

感想『ジョン・ウィック』『DUNE 砂の惑星』『46億年の恋』『イミテーション・ゲーム』『メッセージ』『事故物件 恐い間取り』

ジョン・ウィック

犬映画とされていたので(どこで?)犬映画なのかと思って観始めたが早々に犬は死ぬ。全然犬映画じゃないじゃん!と思って最後まで行くと犬映画だった。犬が傷を癒やし、そしてまた犬に癒される。

ストーリーはシンプルで、引退して愛する女性と結婚した凄腕の殺し屋が、五年余りで妻を病気で亡くし、失意の底で妻が手配していた贈り物である子犬と生き始めたところでロシアンマフィアにその犬を殺され愛車も奪われて復讐に赴く話である。

つまり、夫妻の幸せな日々をたくさん回想して悲嘆に暮れる殺し屋に胸を痛めるのでもなく、五年のブランクを取り戻しながら殺し屋に戻って行くところを見るのでもなく、ひたすらにカッコいいアクションシーンとハラハラを楽しむ映画だ。

アクションは本当にかっこいいと思うし、キアヌ・リーブスの影と哀愁のある姿はとてもハマっていたと思う。ヘッドショットが続くのもこだわりを感じる。特にクラブでの乱闘シーンが良い。曲が大きくBGMとしてかかる中、次々と敵を屠って行く姿はまさにキャッチコピーの如くに見惚れるほどだと思う。

前半は概ね面白く観ていたが、後半にかけて何故かヴィゴ(犬を殺したヨセフの父親、ロシアンマフィアのボス)を見逃してみたり、最後が殴り合いだったりと、銃を持っていながら使わない場面がありもやつく。ヨセフの潜伏先で護衛がFPSをしてるのだが、それもなんか「この映画がやりたいのはまさにFPSですよ」というのを示されている感じがして私にはしっくりこない。作劇としてのエモと撮りたい場面のバランスが後半良くないのかなと思った。

ところで、この記事はどこを読んでもほっこりして好きだ。

 

DUNE 砂の惑星

嫌いなわけないと思って観たかった映画なのだけど、どうしても吹き替えで観たかったので我慢していた。近所の映画館は軒並みすぐに字幕のみになってしまったので。

そしてやはり当然の如く嫌いなわけがなく、好きだなという要素がパレードだった。基本的に全部が良い。世界観良し、建築良し、衣装良し、音良し、映像良し。そして吹き替えも最高だった。殺陣……というかアクションシーンはもっさりしているが、総合すると許せる。

皇帝とハルコンネン男爵の陰謀により、本来いるべき貴い立場から追われた一人の少年が、現地に住まう民に生き方を教わり、父から受け継ぐ権威と母から受け継ぐ超自然的な力によって英雄になっていく話である。原作を読んだことがないのでこの後どうなるかはわからないが、この原作に影響を受けた数多の作品を私が好きだったように、この作品もまた好きでしかないなと思った。私の映画の趣味は父の影響を強く受けているが、この映画はまるで父と観たかのような後味だった。

色々なにか指摘すべきなのかもしれないが、上記理由によりもはや何の言葉も出てこない。楽しみにし過ぎて色々な人の感想を読み過ぎたせいかもしれない。

一つ疑問として、ポールたちはアトレイデス"公爵"家で、敵対するのはハルコンネン"男爵"と爵位に差がありすぎる気がするのだけど何故なんだろう。

 

46億年の恋

失恋映画だった、と観終わった時に思った。

言語化する方が困難な映画なので実際に観て感じるしかないのだが、観賞後の私のおおよその感覚としてはそれである。

人間が誰とどうなりたいとか、あの人のようになりたいとか思ったところで、その対象が自分と同じところまで来て対象それ自身を分け与えてくれることはないし、同様に自分が同じところまで登ってまるで同じものになることなど出来ない。それまでと違うから恋い焦がれ、己だけだと思うから執着する。……と思いながら観てました。

多くの人が言うように、舞台のようなセットと身一つの役者が特徴的で、じゃあ実際舞台でやるとしたら誰で観たいのかというのを考えてしまう映画だった。

とにかく、本当に何を書いても蛇足にしかならず難しい。

 

イミテーション・ゲーム

すごく面白いけど全編苦しい映画だった。何もかもを一人で抱え、やっと見つけた仲間にも秘密を持ち、生命の取捨選択を迫られるなか評価されることのない極秘任務に従事する孤独、哀しみ、苦しみ。

この時代の性的指向による差別、あからさまな女性差別をしっかりと描くためにさらに苦しく、全ての暴力の愚かさに胸が詰まる。

孤高の天才を演ずるベネディクト・カンバーバッチのピッタリさが素晴らしく、彼が徐々にチームに馴染みある側面では理解されていくところと、勾留中で不理解に晒されながらも、他人にわかるように話すという対比が時間の経過を感じて切なくなる。最後のジョーンとの会話を終え、玄関を開けた時よりいくらか明るくなったような表情が印象的だった。

数学や暗号解析の仕組みを事細かに説明するのではなく、終始一貫して人間ドラマとして描いているので、私のようにぼんやりした人間にも観ることができた。この映画においてアランは、もはやクリストファーを取り戻すためにマシンの開発に打ち込んだのかもしれない。

 

メッセージ

お分かりかと思いますが、好きですね。

個体の思考は使用する言語に影響を受けるというのが基本的なこの映画の考え方で、つまり使用する言語が異なる種・個体であれば単語や文法が変わるというような単純な言語的な差ではなく、ある物事の捉え方、物事同士の因果関係の考え方、それにともなって時間の概念が変わる。人類は過去から未来へ向かって因果関係を持った物事として、ひいては時間の捉え方をする一方で、飛来した生命体は──というのが重要になってくる。理解できているとは到底言い難いが、つまり好きな要素である。

ルイーズがヘプタポッドの言語を習得していく中で、それに対応する思考の仕方に変化していく面白さもあるし、もっと単純に意思の疎通が難しいものと会話しようとする試みそのものがとても面白い。12ある宇宙船全てで対話が試みられ、別の手段でもって会話がなされているなら、それぞれ見たくなる。

完全に言語を習得したルイーズがする選択も、結局は言語に適応した思考でのものといえば淡白だけど、映画の作りそのものが擬似的にその思考の形をとるのが分かって良い。

非常に短絡的に暴力に頼る軍やその他組織や、電話一本で攻撃開始を取り下げる将校など、言語学者ルイーズを主人公に据えたいあまりにそうなっているように見え、若干雑に感じる。これは映画の脚本というよりは原作がそうなっているのかもしれないが、それにしても何か説明がないものかとは思う。

映像の面では、やたら遠景で余韻のある映像をたっぷりと差し込んでくるが、これはDUNEにもちょっとあったようなところな気もして、監督の好みなのかなとは思う。

あと音はすごく気持ち悪くなる感じで良い。監督は違うが『TENET』の気持ち悪くなる音も良かったのを思い出す。

 

事故物件 恐い間取り

心理的瑕疵あり物件──広義では近隣住民に何かしら問題ある場合も含まれるため、必ずしも死者が発生した物件のみというわけではない──つまり、事故物件に住むことになった芸人・山野ヤマメ(演・亀梨和也)と元相方・中井大佐(瀬戸康史)の嘘関西弁青春ストーリーである。巻き込まれた梓(演・奈緒)がマジで可哀想になる。騙して部屋に連れ込むな、と思ったが全てお見通しで女神かと思った。序盤から中盤にかけての怪異は割と「ほん怖」の雰囲気であり、横水(演・江口のりこ)と伊崎(演・高田純次)が良い味を出している。

が、例えば二軒目の意味ありげなシミやタイルは賃貸物件として使う気なら直してあるのではないかと思うし、三軒目の梯子も同じである。ただ、この三軒目の続けて三人が「頭痛がして行動に移す」はかなり『残穢』だなと思った。

四軒目序盤まではそこそこ調子良い(エピソードとしてであり表現方法やエピソードごとに割く時間にはまた問題ある)感じだったと思うのだけど、四軒目の怪異畳み掛け除霊バトルは何があったらこういう構成にしようと思うのよってことが気になってもう笑えてダメだった。淡々と可能性が近くにあるから怖いのであって、突然のラスボス登場と異能バトルになるのはどうしてなの。でもあらゆる強化アイテムを持って相方を救うために奮闘する瀬戸康史仮面ライダー*1ばりのヒーローで感動した。傘が役に立ち伏線回収を済ませ、二人がジョナサンズとしてやってきたことが報われ、三人の愛のパワーで怪異に打ち勝って私は笑った。もしかして山野の目指したものはこれか?

しかしちょい役で出てくるバービーだけど、彼女はあんなこと言わないと思う、という関係ないところで悲しくなった。

*1:笑うところ。