サニーサイドアップフォーチュン

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舞台『刀剣乱舞』禺伝 矛盾源氏物語 感想②

ほとぼりが冷めたので前回書き損ねた感想を書く。

本当は後半に適当に追記用の項目を立てようとしていたものの、あれはあれでそこそこまとまり良く終わったと思うし、存外多くの方の目*1に触れたようなので、追記は良くないと判断して別エントリにした。基本キャストには褒めの姿勢*2でおりますのでご安心ください。また、申し訳ないが全員に言及する元気はなかった点は先にお詫びします。

なお、今回も前回同様、特に解説はない。

前回はこちら

 

前回書き損ねたことの一つに、やたらと状況について説明されることへの不満みたいなのがある。行間なのか本編なのかとか、今何が起きていてどこにいるのかとか、すごく事細かに説明されるのはジョ伝の時からずっとそうである。スペースでもつらつらと話していたが、それは映画の『漆黒天』を観ているときにも若干感じていたことだった、という趣旨の話題だった。だがスペースに参加してくれた人(刀ステ、漆黒天ともにほぼ未見)にはない感覚だったので、結論としては運営の問題であろう、ということになった。マーベラス東映の発注に基づき書いているのだから、そちらの修正や依頼の内容によって、そのような描き方になっているという結論である。

物語が書かれた布を使った演出が美しくて好きだった。あの布に文字通り巻かれて物語に飲み込まれていくという演出も美しいし、ぐるぐると絡め取られていく様もとにかく美しい。こういう大きなスペースを取る視覚情報って、会場が大きい故に映えるし、舞台ならではという感じがして好きだった。

刀ステが、无伝の時に真田十勇士に与えられた物語や今回の歌仙や大倶利伽羅のように主人を誤認する逸話を付与されていたとしても、史実として認められているもの=歴史の中にある物語が最強というスタンスなのが面白い。これは原作ゲームが史実に基づいてキャラクターが設計されており、最終的には原作ゲームのキャラクターが優位というメタ的な側面もあるんだけど、歴史が時間の流れとして考えると不可逆であるとするならば、実感としてそれを変えることへの抵抗感があるから納得して受け入れている部分もあると思う。

 

あとはキャラクター関連の話をほぼ書いていなかったので、以下はその辺り。

私は飛び飛びで刀ステを観ているので綺伝を知らないのだけど、七海さんが歌仙なのはガラシャを経た俳優だからで、ほかに歌仙たりうるOG俳優はおらず、また七海さんも歌仙しかなり得なかったんだと思う。それはそれとして自然体な歌仙で可愛らしかった。文系名刀として気取っているわけでもなく、多分そこそこ長く大倶利伽羅とやって来ており、お互いの性質をちゃんとわかっている感じが愛おしい。それもまた家臣を36人斬ったヤバい男忠興ではなく、ガラシャを主人として誤認していたが故に育まれた個体としての性質という描き方なのかな、と思った。

倶利伽羅の彩凪さんはまあ〜〜格好良い。私は今は月組ばかり見ているが、こうなる前には彩凪さんのいる時代の雪組から宝塚の良さを学んだので、あの頃と寸分違わずにまぁ格好が良いこと。正直今回も彩凪さんの演じる大倶利伽羅が観たいと思ってチケットを用意したので、振る舞い、殺陣、内容など全てが常に大満足すぎて笑顔で写真を買って帰りました。徳川家の刀としての逸話の誤認から、伊達政宗の刀としての自覚になるシーンの表情がとてもよく、家の中の安穏が個人への熱い憧憬へ変化する様を感じて素晴らしいシーンだった。あと六条御息所の正気を保つにも狂うしかないお芝居が大変良いので、高らかに発狂する六条御息所と大倶利伽羅の激突がとても好きだった。

歌仙と大倶利伽羅は途中で光源氏としての「お役目」を得ることになるんだけど、ここで喋り方や振る舞いが急にクラシカルな男性像になるところで強く宝塚を感じた。私としては、このシーンが来るまでさほどは宝塚っぽさを感じておらず、セットが階段と盆なのは意図あってのことと思いこそすれ、俳優の切り替え一つでこうも感じ方が変わるのか、思っていた。光源氏としての名前のない男が男性として非常に上手く表現されていて、美しく儚い一方で持つえぐみは非常に自分本位で男性的なので、その光源氏と歌仙・大倶利伽羅のどこか芯の抜けたような光源氏との対比が大変良かったと思う。光源氏の後一歩でかなり有害なところまで踏み込むであろうその性質を、そこで押しとどめることが出来ているのは、やはり俳優の宝塚歌劇で味付けされた表現にあるのではないかと思う。本当にこれは、素晴らしい塩梅であった。

一文字則宗はとにかく金髪が似合いすぎており、地毛もそれでいてくれくらいの心で見ていた。また、常に達観した好々爺としての落ち着きと切なさがあり、それを創作上で沖田総司の刀であったとして取っ払う時の治安の悪いところが格好良い。

山鳥毛のまずスタイルの恵まれ方がそれはもちろん素晴らしいのだが、スマートで気障なセリフの似合うこと甚だしく、またそれでいて殺陣などの荒々しさはどうにも単純な紳士じゃないということを感じて良かった。

姫鶴一文字のやりすぎでない色気、女性と見紛う見目の刀としての絶妙なバランスがあり、またその長い髪や衣装を活かす優美な殺陣が良かった。女性が演じていながら女性過ぎない加減が良い。

南泉一文字はずっと可愛い。人一倍チョロチョロと動き回り、コメディリリーフ的な側面もあるのだけど、にゃんにゃん紛らわしいセリフに噛むことなく、忙しくしてるのが大変可愛らしい。

一文字、マジで全く知らない刀なので元のキャラクターがどうとか一切考慮できないのだけど、優雅で不穏な集団としての魅力がとても良かったし、OG向きなのではだと思った。変な言い方ではあるが、構成人数の多い「劇団」というものの中にあって、その中で「集団」というものを演じた経験がある人たちとしてのまとまりがあると思うし、最終的な印象として「集団」としての毛色が同じであるというのは、やはり同じ訓練を受けた経験が活きてそう感じるのではないのだろうか。

女性たちも大変良い中、やはりコメディとしての動きを多く担う小少将の君の元気が可愛く、そして楽しく、物語が佳境になってくる中でも癒しとしてあったのが良かった。

 

*1:普段アクセス数が一桁のブログを書いている身からすると、じゅうぶんに考えられない人数が読んだということになる。

*2:と言っても、楽しかったのでマイナスポイントが思いつかない。