サニーサイドアップフォーチュン

映画、特撮、演劇、ダンスボーカルグループ

舞台『ちょっと今から仕事やめてくる』感想

ヒーローでないいーじまくんが観たくて行ってきたよ!

ネタバレというほどのことはないけど、内容わかってること前提に書いてしまってるところも多い。核心は書いていないけど外堀は書いてるね。

ストーリーの話

あらゆる辛かったことを思い出し、涙が止まらなかった。

私は青山ほどの追い詰められ方もしていなかったのだろうし、事実追い詰められているとは周りに思ってもらえていなかった。今も多分、私があの日々で死ねれば楽なのにと考えていたことを、理解してくれる人は現れないだろうと思う。

だから青山のそばに現れるヤマモトという理解者が愛おしい。観ている人はみんな、多かれ少なかれ青山に自分を見るから、それを救ってくれるであろうヤマモトが愛おしい。ヤマモトと出会って、日々に削られていた青山の笑顔が戻ることが愛おしい。

そして、映画も原作小説も知らないのだが、舞台に関して言えば完全に男二人作品だった。

青山は「就職している自分」というものをニートヤマモトと交流する中で良くも悪くも向き合うことになるし、ヤマモトも青山を通して過労自殺した兄のことを受容して行くわけで、二人ともお互いが特別であることに変わりはない。支え合えることの、些細だけど当たり前の幸福にまた涙する。

だから、二人が友人として関係を続けてくれたラストに安心した。物語としては青山の立ち直りを経て、ヤマモトが立ち去ってしまうドラマチックな展開で終わっても良かったのに、そうならずにちゃんと関係を維持してくれたことが嬉しい。

私は、私の経験で、まず「疲労した私」が最初に捨てたものが「他者との関係性の維持に支払うコスト」だったことを知っている。青山が既読無視を続けたように。無視できないほど維持することが自然な関係性に二人がなってくれた安心感と嬉しさ。

それを二人の対話を主として描くのが、二人が友人として築いてきた世界だと思わせてくれて、すごく好きだ。原作も映画のラストも知らないが、ゆっくりと日常に戻り始める彼らと、世間の変わらない速度と、押しつぶされないように緩くまた連帯し直す二人がとても愛おしい。

 

青山とヤマモトの話など

まあなんてったって追い詰められる青山へ自分を投影してしまう。たぶん観客みんながそうなのでわかってくれると思うのだが、青山の陥っている状況のどこかに、訴える症状のなにかに、自分と重ねて見る何かがある。それはイキっていた青山かもしれないし、死にかける青山かもしれない。飯島さんの線の細さはそういうところがとても「青山」というか、大学生にも死にかけのサラリーマンにも見える不思議な感じだった。あと追い詰められていく表情がとても良い。

死に急ぐてもなく青山を引っ張って生きようとする勝吾さん、大層魅力的だった。ヤマモトという、観客のみんなから恐らく友人として望まれるような溌剌で、かっこよくて、思いやりのある男が、彼のような人(ビールの生産者の方のお話を聞いて泣いちゃうような)が演じてくれる説得力が良かった。

岩井、彼には彼の悩みとかもあるはずなんだけど、入った会社だけでこうも見え方変わるのかというか。私はどう見えている? 私はどっちだ? と恐ろしくなる存在だった。どう思われたいかを気にしているというよりも、私の存在が青山でなく岩井として誰かを追い詰めることも、あるのではないかという恐怖*1。葉山さんは愛嬌があって、岩井のキツさをオブラートに包んでくれてたなと思う。青山を見下しているのかもしれないけれども、それよりも青山に対してそれほどの興味がないのかもしれないけれども、セリフなどからはそういう負の感情を読み取るんだけれども、軽やかに受け取るのは葉山さんの愛嬌のおかげだと感じた。

五十嵐さんと部長はマジでもう辛すぎる。五十嵐さんがそんなことに耐えてまでその場所にこだわる必要あったのか? 悲しくて涙出た。

 

駅など

いや線路めちゃくちゃ怖いな。

線路セットを線路としてじゃなくて青山の通勤の道のりとして使うの、あまりに怖い。脱線することも許されない、遅れることも許されない、会社そのものじゃん……。

あと青山が会社を辞めるときに同じ部のメンバーに対して「これで良いのか」と問う場面。舞台の後方に部長がいるわけだから、当たり前にそれより手前が部下たちの席になる。つまり、観客席だ。色んなこと*2に耐えてるんだから「良いのか」なんて問わないで〜〜となった。

 

最後に

みんな身に覚えがある、なので何かしら心が動く。私の場合はそれが共感であり、乗り越えた二人に対する親愛の情であり、辛かった思い出に起因する涙である。

もしかしたら、今まさに「それ」に苛まれている人にとっては、そしてヤマモトのような存在がいない人にとっては、より自分を追い詰めることになるのかもしれない。

そんなになってまで耐える必要があるのか。たしかに無職になることは勇気がいるけれど、別に何とでもなるんじゃないのか。もし心の底から心配してくれる人がいたとして、自分ってどう見えるのか──。

そういう視点に気づかせてくれる(そういう視点でも良いと勇気がもらえる)作品だなと思う。

観に行ってよかった。

 

*1:安心して欲しいのだが、何事においても私は本当に劣等生なのだ。

*2:ちょうど忙しい時に限って問題が発生し、まさにそのタイミングで観劇してしまった。