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感想『刀剣乱舞 廻 -々伝 近し侍らうものら-』『千年女優』

なぜかわからないが、アニメ映画ばっかり見ている。

刀剣乱舞 廻 -々伝 近し侍らうものら-

正直、刀剣乱舞というコンテンツとしても、虚伝(と言って良いのかわからないが実質はそうとして)の前日譚としても、そもそも歴史物としても面白い出来になっていないと思った。舞台として上演するならもう少し奥行きや含ませた表現が出来たであろう会話劇も、結局アニメだと間延びしており戦の話でありながら戦を全然しない作画コスト削減みたいな映像にしかなっていない。淡々と事実が展開されていくだけで人間側の深みや魅力が全然ないのに、人間の業を描かれても特に面白いと思えない。

最後の巨大化した時間遡行軍との戦いも、アニメでやるから出来るという表現とはあんまり感じず、またそれに対して足止めの仕方がかなり現実的な手段だったのが舞台っぽい演出という感じで「結局要所で殺陣を出来る舞台でやるべきだったのでは?」となる。

そもそも虚伝に続く、本能寺へと続くお話であるわけだから、なにか劇的な解決がもたらされるわけではないのは初めからわかっている。それでもあんまりにも個々の感情の揺れを感じにくくまた語られず、それでいて淡々と歴史の流れは汲み取られていくが故に、山姥切にも長谷部にも心を寄せづらく、山姥切の苦しみに対してこちらが同じように苦しさを感じることも出来ない。小田原公演を観て、虚伝を観たら良いということではないと思う。山姥切が何に苦しみ、何を得て。長谷部が何を受け入れられなくて、何が欲しくて。三日月がどうあって欲しいから、どうしたのか。全てのそれに繋がっていくはずの物語なのに、それらが全然魅力的に描けていなくて本当に消化不良だった。

 

千年女優

良い映画だった。自分の目的のために全てを振り回す千代子の造形があまりに苦手すぎると思って見ていたのだけど、「鍵の君」を追いかけて過去の自分の作品や自分とオーバーラップするところで、「ああ、この人は自分がヒロインのロマンス映画をずっと観てるんだ」と理解してからストンと彼女の魅力が理解できた。

千代子が千代子として、自分でやりたいこと──女優を選ぶことも、「鍵の君」を追いかけるという目的があってこそだった。きっと「鍵の君」を追うことで初めて自分の行動力に気付いたのだと思うし、そこをきっかけとしてたくさんのことを決断してきたのだろうと思う。だからこそ鍵をなくしたことは耐え難い喪失であったのだろうし、鍵をなくしてからは他人の期待する振る舞いを選んだのかなと感じる。鍵を取り戻して行動を始めるところを見ると、やはり千代子は自分のロマンス映画のために女優になったのだろうと思った。

またそんなふうに自分のしたいことと、それに真っ直ぐにしか物事に取り組めない千代子の性格を、その在り方が千代子であるとして良しとし最後まで味方でいてくれた立花がいたように、きっとたくさんの人がそうやって良しとしてくれたが故に真っ直ぐなままでいられたのだろうというのが察せられて良かった。またおそらく千代子自身は、それをわかっていたとしても意に介さないというか、そこに対してヒロインとして以上に何かを示したりしないのだろうなというのも理解出来て良かった。鍵が何を開けるものかわかっていたように、薄々わかっていたであろう「鍵の君」の死を知らぬふりをして、初めから最期まで女優であり続けたのが彼女の魅力なんだと思う。