サニーサイドアップフォーチュン

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舞台『TRUMP』2015年版感想

若手俳優厨をしていたのに、TRUMPを履修したことがなかったオタク。そうそれが私。

20も半ばであるがはじめての繭期を迎えたのでその感想を残そうと思う。今年に入って、配信を最後まで観れたのもこれが初めてだった。

まず基本的に善良な観客である私は、ステージで起こってること全部をまるまる受け入れてしまって観終わった今となってはあまりに綺麗に術中にはまってしまったことを許せないですね。もっと疑ってかかるべきだったんだよ。

ともかくとして構造の巧みさなんてことは、私のように後発の繭期を迎えた人間には新鮮であっても、永遠の繭期の中ですでに生きてらっしゃるであろう先達は理解しておられる。が、あえて書き残す。言われてみれば、ずっとアレンはピエトロとクラウスとしか話してなかった。アレンを見ませんでしたか、と問いかける割に生徒を検める気もないみたいだった。ティーチャーミケランジェロが猫を抱き上げた時の怖気が忘れられない。そういえばずっとソフィの近くに居たがったよね、ティーチャークラウスは。

クラウスはアレンと友達になりたかったが、その理由は明かされなかったね。明かされないという言い方はおかしいかもしれないけれども。

人が人の何を気に入ってともに在りたいと思うのか、結局は感覚的なことだから明記される方がおかしいんだけど、それを描いてくれないことでこんなに不安に駆られる作品があるかという気分だ。クラウスはアレンの何に執着したの、アレンの何がそんなに欲しくて、愛おしかったの。クラウスがそれを説明しないことが怖い。100年も経ってるのにネコに名前つけて可愛がるその狂気、メリーベルの名前呼ぶ時に巻き舌になるのやめてくれ。

クラウスがそうやって狂っている中で、ずっと対比するように扱われるアレンも相当ふわふわの不思議ちゃんではあるのだけど、そういう生に対する奔放さはあまりにも長い間死んでゆくものを見送ったであろうクラウスの頭の中にはもうたぶんないものだったんじゃないだろうか。生きている実感のために規則を破って外に出たり、欲しいもののために一生懸命に手を伸ばすアレンは、クラウスの失った生きることの意義そのものだったんじゃないかなと思う。クランの中で監視され、城の中で王様にもなれないクラウスには、もう。そしてアレンが己と異なる他人の形をとる以上、友情としての関係性を望むしかなかった。

アレンもアレンで、ダメだと言われても恋に狂ってた。メリーベル(巻き舌ではない)の血族がソフィの代まで生きていることを思うと、彼女も本気だったのだ、と思う。私の中のクラウスが嫉妬に狂っちゃうよ。アレンはなんか、その不安定さが魅力的な男の子で、自分が自分の意思で何かを選んでるってことを疑わないという点で傲慢だし、欲しいものがあったら一直線になる幼さを隠しもしない。アレンが手を伸ばした星がある人にとっては生死であり、ある人にとっては当人そのものというね。

自由に生き、アレンとメリーベルの末裔であるソフィが、誰よりも気高く孤高の吸血鬼であり続けることと、気高い血族のはずのウルがだんだんと生に執着するように卑近な変化を遂げていくことの辛さ。実際はクラウスのイニシアチブだったわけだけど、ソフィというアレンの血を守るために、まるでソフィがイニシアチブを発動させたかのようにクラウスがクランの同級生を跪かせたとき、一度あったはずのソフィとウルの友情は壊れてんだよな。信仰や上下関係はあくまで対等なはずの友情と同居できない……。万夜様と穂波もそうだったでしょ……。

それが死際になって──ウルがナイフを捨てたのは、あれはクラウスのイニシアチブではないでしょ?

ウルが望んだ、ソフィが死なないことを。

ソフィもまた、唯一の友であるウルが生きることを望んだのに始祖TRUMPがそれを望まなかった故にウルは死ぬ。クラウスはソフィが自分の「友達」として生きながらえさせたいから、ウルに永遠なんて与えたらソフィは見向きもしなくなるもんな……クラウスのこと……。(まあクラウスにとってウルはどうでもいい存在なので、これは「ソフィに好かれたいがために行動するならウルの生を利用したらいいのに」という私の考え方であり、クラウスが欲しいのはそもそもアレンの心なのでソフィの欲しいものもどうでもいいんだろうな)

ソフィの剣がラファエロに似ているとウルが指摘した時、ソフィの高潔さはラファエロの真似してるのかなと思った。ラファエロ自身は、ウルが生きたいという卑近な悩みに落ちていくのに合わせてどんどん人間臭くなっていくから、アンジェリコはそれを許さないだろうなとも思う。

身分の高いアンジェリコにとってみれば、同じように身分の高い存在であるラファエロ(デリコ家)は唯一自分と同等になれる可能性のあったものなんでしょ?

ラファエロも結局は弟を愛していたわけではなくて、父がデリコ家の嫡男として課した役目だったからウルに固執したんでしょ、きっと。父や社会にデリコ家のヴァンプとして認められるっていうのが欲しかったものなんだろうな。

対してアンジェリコは貴族としての矜持をきちんと持って繭期を拗らせてるからあんな仕上がりだが、アンジェリコもまた望んだものを目の前で亡くすのだからTRUMPは地獄。

誰も何も手に入れられないという点でTRUMPは地獄。

いや、でもクラウスはアレンの代替品に永遠に追われることができるようになったから、少しは欲しいもの手に入れたのか。