サニーサイドアップフォーチュン

映画、特撮、演劇、ダンスボーカルグループ

感想 ミュージカル『薄桜鬼 真改』斎藤一 篇

10周年おめでとうございます。

2017年の原田篇以来、実に5年ぶりの薄ミュに行ってきた。今回は10周年記念に際して、二代目斎藤一である橋本祥平氏がカムバックした座組みで、何気なく鈴木勝吾氏もいるというそこはかとなく昔の薄ミュ感を漂わせている。

なお今回はそういう記念公演である関係上、自分ルールを二つ*1も一気に破ることになる。仕方ないとは言え気が咎める。

 

全体的な印象としては楽しく観劇することができ、丁寧にエピソードを拾い、死にゆく人たちの見せ場もあり、かつ斎藤一がちゃんと格好良い作品に仕上がっていると思う。演出・西田大輔氏ということで殺陣の手数も大幅アップ、そこかしこにドラマチックでねっとりした西田氏らしい演出を感じる。突然の明転。実際に破られ、蹴り倒される障子。多い動線。度々舞い上がる桜の花びらなど。最後の刀が光る演出など笑っちゃうくらい作為的かつ劇的。

また音楽・歌詞ともに一新されたことで、歌から得る印象が洒落たものになっていて、志譚以前ほどのインパク*2は無いにしろ聴き込めば「良い曲だな」と思いそうな気がしていた。

しかし本当に、よく歌う。

斎藤一篇そのもののストーリーがどうしても土方さんに帯同する形で運びがちなので、各隊士のストーリーを拾うことに違和感はない。が、歌詞が別にセリフになってるわけじゃないことにプラスして殺陣がたっぷりあるので、ダイジェストっぽい作りの割に一つ一つのシーンが長いみたいな現象が起きている。ちょっと盛り上がりのシーンが多く設けられすぎていると感じたけれど、旧シリーズであればさらりと流されていたであろう山崎さんの討死、沖田くんの病死、近藤さんの斬首などに時間が割かれ、より個々人が何のために戦い、死ぬのかが鮮明になっているとは思った。これは正直言って、観た人間の好みかどうかの域かなとは思うが、旧シリーズが試行錯誤の結果「ルートのアツいポイントで確実に盛り上げる」という結論に達していたのとまた別だと思う。今回は斎藤さんが「どう生きて行くのか」の話であることも相まってそうなったのかな、と感じた。彼は先に死んでいった人たちの思いも背負ってるので……。

個人的には沖田くんの病死は新鮮で、これはこれで好きだった。旧シリーズは皆がそれぞれ戦う道を選択するが、今回はルートとして、史実に正確に沖田くんが病死する。「黒猫すら斬れなかった」逸話を、労咳になりたての頃から病の黒い影としてちらつかせて、死ぬ間際の斎藤さんの黒い洋装の幻影になり、近藤さんや土方さんの側で跳ねる一匹の黒猫として収束して行くのすごく切なくて美しいと思う。あと咳がめちゃくちゃ上手い。また、これは脚本の考え方の違いっぽくて面白い。アニメのように千鶴ちゃんが側にいなくても生きて戦うために手段を選ばないのか、散り際こそが完成なのか、みたいな。

斎藤一ルートというのは、とにかく斎藤さんが頑固なルートだ。こっちはバッドエンドを回避したいから早く渇きを癒したいのに、当人は全然血を飲んでくれない。が、今回の斎藤さんは結構素直だ。というか、しょっちゅう苦しんでる素振りをしていないので何度か千鶴ちゃんを突き放していてもなお、比較的素直に見える。それゆえにか、もしくは単純な分量不足か、あんまりラブストーリーとして二人が強く結びついてる印象はなかったかなとは思う。丁寧にエピソードを拾った結果、カットしても良さそうな部分を感じるというか、ちょっとそこ削ってもっと斎藤さんと千鶴ちゃんのエピソードやらない?と思った。筋肉ダンスとか削ってもいいでしょうよ。

そうだ、そう思うとダンス関連あんまりいらないんじゃ無いか、と思った。オープニングですごく踊るということも、なんか羅刹が後ろで踊ってるということも、剣舞ならまだしもめちゃくちゃ普通に踊ってるのが、武士としてちょっとどうなんですかと思った。

橋本祥平氏はやはり安定感があり、なんというか「知ってる斎藤一」なので安心感もある。原作に似せる似せないとかではなく、もう彼の中で咀嚼されて出来上がってる斎藤一がいて、それを表現していると思うし、そうであって欲しい。私が観た回はスペシャルカーテンコールで初代である松田凌氏が出演しており、熱く抱擁を交わしていたのがとても印象的だった。

あと、松田凌氏は壇上に登場する際、初代千鶴ちゃんの吉田仁美氏をエスコートしており、初代コンビの尊さを感じた。

風間さんと山南さんで歌う場面があるがすごい湿り気でよかった。千鶴ちゃんも本当に歌が上手かった。

全然関係ない舞台の話が混じるのでどうだろうとも思うが、近藤さんの斬首のくだりは、薄桜鬼上では永倉さんしか見ていないはず*3なのではっきり描写され、それに対して土方さんが慟哭するのはかけ隼で観た構図と似ている。

観劇後の感覚は夏映画*4によく似ていて、ヒーローがいて、ヒロインがいて、悪役がいて、仲間がいて、危機を乗り越え悪を打ち倒し、これからもヒーローとして生きて行く、という感じだった。

*1:観劇した公演日を伏せる、レポ禁の二つである。

*2:ヤイサヤイサって歌う曲に勝つインパクトって、何?

*3:原田さんいなかったと思うんだけど、記憶違いだったらすみません。

*4:この場合、仮面ライダーが秋の最終回前に公開する一年の集大成映画のこと。