サニーサイドアップフォーチュン

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感想『リトル・マーメイド』

リトル・マーメイド

ディズニー好きな友人が誘ってくれたので観てきた。どうしてもハリーの声で「パート・オブ・ユア・ワールド」が聴きたかったので字幕版である。

あまりに歌が良すぎる。なんとなく、ソルティなナオミ(ジャスミン)とエマ(ベル)と、スイートなリリー(シンデレラ)とハリー(アリエル)って感じでバランスも良いような気がする。

 

いろんな人がいろんなことを述べている作品で、この状況下で全くほかのレビューを読むことなく映画を見るのは難しいという他ない。故にこれから記される感想その全てが私の中のみで生まれたとはすでに言い難い。ご容赦いただきたい。

 

大変に真面目に真摯にアニメの「リトル・マーメイド」を実写化している作品であると思った。アニメの演出で活かせる部分はリスペクトがあり、ギャグパートが寒くなることもなく楽しい。

アリエルもエリックもとても可愛いカップルで好きだった。それぞれが抱える馴染めなさに対して共感をし、好きなことや興味のあることを心から共有し合えるがゆえに惹かれ合うようになる過程がしっかり描かれていて大変に良い。船乗りを惑わす人魚でも、冒険にかまける王子でもなく、二人には知りたいこと見たいこと、大きな世界を求める姿が共通している。この辺りの脚本が増えたことによってアニメ版よりもずっと、エリックが世界を知ろうとしていたことにアリエルが強く影響されて、道を切り開く決心に繋がるのだと思った。

とにかくアリエルの歌声が素晴らしく、「パートオブユアワールド」で込み上げてくるものがある。また陸に上がると色んなことに興味津々のアリエルの可愛らしさが爆発*1しており、やることなすこととってもキュートで最高だった。アリエルは確かにエリックの存在で脚を手に入れる決心をしたけど、元々人間に対して興味を持っていたのだから、エリックを振り回してあちこちに走り出すのは当たり前なんだと思う。

ヴァネッサ(アースラ)の登場で「自分に帰る場所がない」ということに気づくのも良かった。城にやって来た際の声を失うことによるコミュニケーションの困難さ、トリトン王が案じていたものが何であったのかや、自分が捨てた物の中にアイデンティティが明確に含まれていたことに気づく描写に、アリエルの成長を感じる。

エリックの造形も良くて、王子様が単に冒険に憧れて海に出ているとかではなく、知りたいことや偶然拾われて王子という立場になった自分ができることを模索している感じがしっかり伝わって来て印象深い。自分が王家の血筋でないことや、親に理解されない孤独感。どうにも社会に馴染めていないエリックが、アリエルという理解者を得て自分らしさの軸を持つのが良かった。

ここは完全に私の想像の域を出ないが、この国は自由を求めたり、沈没事故に遭った人たちが集まって生まれた国なのかなと思った。だからこそ、アリエルが漁師の網に引っかかってもすぐに助けてもらうことができ、色んな人種の人たちが暮らす港があり、エリックが王子として迎え入れられたかなと。ここはそういう意味で、理想の国なんじゃないかなと思うのだ。ラストシーンなどに象徴されるような、海と陸、この国と海の向こうの国が分かりあうために、存在する理想の国。

土地や歴史の話は──つまり植民地主義的だという指摘は、実在の国名が出てくるがゆえに補強されてしまっているようにも見える。御伽話としてだけ見てほしいわけじゃないからかもしれないが、実在するということはそれについて歴史も伴うということでなので、扱い方が大変に難しいと思う。

アースラがずっと最高の悪役で、自分本位でセクシーで良かった。小エビを食べるシーンなど危険で、大変に色っぽいと思ったし、アースラ自身もその根城もちゃんと不気味で怖い。

そういえば、スカットルが“おやつ”を食べているところやサメが襲ってくるところなどもそうなのだけど、結構そういう食物連鎖というか、食べる食べられるの怖さみたいなのを描くなと思った。セバスチャンがシェフ・ルイに追いかけられるシーン*2がカットになったがゆえだと思う。アリエルが海から上がって城の浴室で見た魚のタイルは、人魚との価値観の違いをはっきり自覚させる“文化”だった。

セバスチャンの蟹さとか、スカットルの鳥さとかは結構すぐに慣れるが、フランダーの魚さだけちょっと時間かかった。「キス・ザ・ガール」のところが可愛い。

実写で見るとトリトン王の「寂しくなる」の威力が増大しており、かなりグッと来てしまった。

もうすでに書いてしまっている内容と重複するけど、私はこの映画のラストシーンを見て「私たちは分かり合える」と信じたいと思った。きっと分かり合えるし、分かり合いたい。ラストシーンのセリーナ女王とエリックの会話など、とてもストレートなメッセージだと思う。

*1:北村先生のエントリによると、これはボーン・セクシー・イエスタデイと言うらしい。

*2:実写でやったところで良いものにはならないシーンだと思う。