サニーサイドアップフォーチュン

映画、特撮、演劇、ダンスボーカルグループ

舞台『タンブリング』

岩崎兄弟(双子)の話しかしていません。

ドラマも見てた記憶はあるが内容はほとんど覚えてないので何かドラマ由来のネタがあっても気づいていないです。

昨年緊急事態宣言の影響により中止された『タンブリング』が、今年一部キャストを入れ替え再度上演され、去年の払い戻し金額をそのまま横流しするイメージで観劇してきた。

物語の主軸は野村朔太郎(演:高野 洸)と北島晴彦(演:西銘 駿)のコンプレックスと確執、そして和解と青春にある。こんなことはもうあらすじ見れば書いてあるのだが、ひとまず。

そう、何はともあれ岩崎双子がアツい。

兄・岩崎達寛(演:納谷 健)と弟・岩崎和寛(演:長妻礼央)は双子の兄弟*1で、まるで似ていないことを作中でも指摘される。兄・達寛は中学時代から結果を残しており、名門悠徳高校に入学してからも一年生のエースと目されている。性格も面倒見が良く、朗らかで、自らの実力を驕らない。対して、弟・和寛の技術は兄に及ばず、兄に負けたくない一心で練習に励み、自らに非常に厳しいが他人にも同じように厳しい。和寛はその厳しい性格から他の部員達と衝突したりする中、達寛は弟を抑え諭し、和寛はその兄の言葉で引き下がるのである。

和寛は「どうして達寛に出来るのに自分には出来ないのか」という大きなコンプレックスを持ちながら、基本的に兄に対して反抗的な態度を取ることはない。達寛もまた弟を諌めながらも、性分を理解し必要以上に構ったりして彼の中の自分へのコンプレックスを刺激したりしない。兄は弟の心のうちを理解して自分が干渉出来る範囲をわかっていて、弟は兄が理解していることをわかっているからこそ兄の制止を客観的なものとして受け入れる。脚本の人こんなこと考えてなかったら本当にすみません。

そんなふうに複雑な感情を持ってる兄弟でありながら、なんと仲が良い。まずそもそも、比較されることが分かっているにも関わらず、同じ強豪校である悠徳高校に進学している。通学カバンも同じイエローのバックパックで、他校との共同合宿で人前で着ることが分かっているパジャマもお揃いのブルーのチェックである。三年間同じ部活動に励み、二人して大学に進んでも新体操を続けることに喜ぶ。

つまり、岩崎双子はお互いの中に複雑な感情を内包しながらも、兄弟として最も心地よい距離感を保ちさらにめちゃくちゃお互いが大好きなのである。

この双子の距離感だが、高校入った時点でこのような落ち着き方をしている所を鑑みるに、恐らく中学時代でお互いへの感情を昇華させる出来事があったはずだ。例えば過干渉なまでにアドバイスを繰り返す兄に反発した弟がコンプレックスを曝け出した結果、本心の吐露や兄弟揃って取り組む事の意義を感じるとか。他の選手から嫉妬される兄がついに直接的な被害を受けて、弟はそれに沈黙する兄に代わって仕返しを試み、あわや新体操を出来なくなるかもしれない事態に陥り、お互いにお互いが新体操ができないことが一番堪えることを知るとか。全部私の妄想なので無い話です。

パジャマだってバッグだって、高校生であるなら家族が用意したものをそのまま使っている可能性*2もある。それ故に「一番新しいから」という理由で同じブルーのパジャマを合宿に用意してしまって軽く諍いになったり。そもそも家族にお揃いのものばかり与えられていて、「高校生にもなってお揃い?」と家族に文句言いつつも妙にシンクロしてほとんど毎日同じパジャマで寝起きしたり。双子であるが故にクラスを分けられており、もしかしたら昼休みのたびに兄のところに弟が来るかもしれないし。2クラスで体育やる時にわざわざペア組むかもしれない。これらも全て私の妄想で、この世に全く無い話です。

というわけで岩崎兄弟は作中すこぶる仲良し(?)なわけだが、これは才能ある兄から弟が逃げ出さなかったからこそもたらされている。

晴彦は違う。彼は朔太郎から逃げ、悠徳高校に入っている。それ故に晴彦は作中和寛の肩を持ち、彼の努力を尊重しようとする。晴彦は達寛から逃げない和寛と、和寛へ干渉しない達寛から、朔太郎とのあるべき距離を感じ取ると言っても過言では無い。過言だが。晴彦は達寛と違って朔太郎との対話の中で伝統にこだわること=伝統校・悠徳で己を律して成長して来た自分から脱却する。一方で達寛は割と最後まで保守的なところがあると思う。

この晴彦の「常に2番手の憂鬱」が生々しい上に、朔太郎の「自らが常に優っている事に対して無自覚なまま、相手を傷つけていく」恐ろしさが辛い。しかも晴彦は己が抱いたコンプレックスに対して、「自分がそう思うことが悪い」と考えているのに対して、朔太郎は「直すから」と言いつつも、恐らく言動については直したのだろうが結果としては常に優位に立ち続け、最終的に晴彦が夢見た海外への道を得る。晴彦はそれを笑顔で見送り、日本で社会人クラブに所属する事に決めている。これが才あるものの選択と、そうでない者の進路と言わずなんと言うのか。晴彦はその状況に納得している。諦めてはいないが、その納得に対して朔太郎の無邪気な言葉がまた辛い。

だが一方で朔太郎の指摘は常に的を射ており、高校一年生の時点で朔太郎が指摘した晴彦の悪い癖は、三年生の団体メンバー決めまで引きずられるのである。

 

とまあストーリーは上記のようにやたらと岩崎兄弟に偏った楽しみ方をした。半分くらい妄想だが。

気になるところとしてはそれぞれが最後の大会を前に直面する苦難の処理の仕方についてかなと思う。強豪校が「三年生は最後の大会だから」と限られた重要な試合のメンバーを決めるだろうか。家庭の事情のあるメンバーを大会に出場させるために、家業を高校生が手伝う事でどうにか機会を作れるものだろうか。鈴木のフェミニン*3さとか、ディーン*4についてとか考える余地はあると思いますね。基本はわかりやすい青春ストーリーであるから、そういう内容について満足できるかどうかというところもある。エンディングで流れる写真売ったらいいと思う。特段どこがが秀でていた印象はないけど、長すぎることなくスピード感あったし見やすかった。歌いるのかなこれ、どう思います?

そうは言うもののレオタードで出て来た時や、実際に新体操をしているところなどは、頭の中にKingdomがよぎりながら成功を祈っていた。実際目の前で演じられると「頼むから怪我せず終えてくれ」で見てるこちらの余裕がなくなっていくな。

*1:ネーミングからもタッチなのだけど、エンディングの写真演出で幽体離脱をする写真がある。

*2:特に、悠徳高校は全寮制のようだし

*3:フェミニンなキャラクター付けがされた者が、身体的接触を求めることに対する違和感があった。考えすぎ?

*4:出自とルーツのキャラクター付けについて。