サニーサイドアップフォーチュン

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感想『キノの旅 - the Beautiful World-』『鋼の錬金術師』『鋼の錬金術師 完結編 復讐者スカー』『SOTUS』

キノの旅 - the Beautiful World-

懐かしかったので行ってきた。

ちょっと手元に原作本がない状態なので定かではないが、原作に忠実に話が進み、原作の空気を活かしての舞台化だったと思う。ある世代の人には大変馴染みある作品だと思うが、あの雰囲気で進んでいくので、懐かしいなあとなった。個人的にアニメより好きかな。淡々と進むことがどうにもアニメ向きじゃないと思うので、淡々と進みつつ、演者の加減で緩急を付けることができる舞台の方が違和感がない気がした。

婉曲的かつ小説らしい長い台詞回しもそのままに、エルメスや陸が擬人化(?)されるなどの舞台的な工夫もあり、ちゃんと『キノの旅』の舞台だなという感じがして良かった。人間のままならなさ、価値観の不確かさ、傲慢さ、孤独さがよく表現されていて良い舞台だった。

キノと師匠は女性である。

キノは行く先々で男性と思われており、本人も特に訂正しないので、「男性のように見えるべき」であるとしたら「女性かと見紛う」という意味で櫻井圭登さんでも「そうかー」となる。あとめちゃくちゃ可愛い。

じゃあ師匠はどうなのかというと、男性の演者で女性を演じている状態で、特に男性である必要は感じなかった。意義がよくわからないと言えばそうなのだが、別に誰がどう演じても良いと言えばそうなので、不思議な気持ちだった。

 

鋼の錬金術師

評判が悪いが、そんなに怒るほどの酷さではなく、普通に中断したりせずに楽しんだ。

さまざまな予算のない2.5次元舞台やらCGが力尽きた特撮やら、展開が許せない映画やら描写が許せないドラマなどを観た上でこの映画を見ると、別にそこまで怒るほどのものでもない。

たしかにカメラワークは繋ぎが悪い・動きが感じられないといった気になるポイントも多々あり、映画としてまとめるにあたって発生している改変の処理についても甘さを感じる。序盤のマスタング大佐のお芝居の不安感や、終始微妙なウィンリィなどもつらい。だが全てが不安なわけではなく、ラスト役松雪泰子さん、エンヴィー役本郷奏多さんがとても似合っていて良かったと思うし、アル役水石亜飛夢さんはお顔が出ないなか非常に魅力的だし、エド役山田涼介さんも良かった。山田さんに関しては特に、ニーナとアレキサンダーがキメラにされたことに気づく、長く表情の変化だけを映したカットが素晴らしかった。そこは十秒戻してもう一度見た。

冒頭書いたように、いろんなところを経由してきた身としては、衣装に「厚み」があったのも全然褒められるし、街中の一般人が欧米の方などではなく日本人でやり倒したのも褒められる。CGもちゃんと力尽きることなかったし、「そんなこと」と思う人もいるかもしれないが、そういうことが持続できない作品もあるのだから、そういうストレスがないことは私にとってとても大事なことだ。

 

鋼の錬金術師 完結編 復讐者スカー

ついて来れる人間だけ観てくれ、という感じの内容になっていた。「最後の錬成」に向けた顔見せの意味合いが強い。前作より全体的に馴染んでいる感じがした。

・よかったところ

ウィッグが良くなった。山田涼介さんがフルウィッグになったのだろうか、髪の境目が気になるということもなく発色も良い。他の登場人物についても同様。また、前回同様に相変わらず衣装が良いと思う。

役者陣も豪華ななか、本郷奏多さんが引き続き最高なところに、渡邊圭祐さんという新星が現れ、舘ひろしさんが濃ゆい。そしてあの短い出演時間で100点を取る山田裕貴さんという感じだった。

私はこの映画のエルリック兄弟がすごい好きだなと思っていて、水石亜飛夢さんも山田涼介さんの芝居も良い。アルは鎧で、漫画のようにデフォルメ演出を無理して取らないので(これも良いところだと思う)彼のお芝居が本当に重要だと思う。スカーと対峙し、何度も命の危機に瀕する中で、彼の叫ぶ声がとても良かった。エドは前作より声色にドスが効いており、よりエドワードらしい印象を受けた。

内容が本当に原作そのままで、とにかく原作の雰囲気であるとか原作らしさ、メッセージを映画に落とし込もうとしているところも評価できると思う。

・わるいところ

相変わらずのカメラワークで流れが悪い。原作そのままにし過ぎた結果、漫画の表現のまま映画になっているので、画像を見せ、止まり、次の画像を見せ……と言う印象である。前回も相当だが、今回もその状態について改善は見られず、アクションもそれによってかなりぼやけていると思った。

コロナ禍故仕方ないが、今回はCGが風景に多用されている。そのため、背景と人物の違和感があるシーンが多々存在する。アルや錬金術関連のCGはよく頑張っていると思うのに、そこで微妙な気持ちになる。

ストーリー上、前作よりキャラクターが増えてこなさなければならないタスクが増大。話は着々と進むもののやや単調というか、実際の上映時間より長く感じた。必要なところをしっかり押さえるところは良かったし、これ以上削ることはできないので、もう少し緩急がどうにかならないのかなと思った。

キャスティングについて、彼女は何も悪くないが、なぜかメイだけ中国出身の俳優さんになっており、そうするのであればシン国のキャラクターは全員ルーツに気を使うべきだったのではないかと思う。これは別に「再現としてそうあるべきだから」ということではなく、彼女のルーツとメイのルーツがリンクするからキャスティングされているのではないかと感じるからで、彼女がアメストリス人にキャスティングされていればそこまで考えなかったと思う。ただ、リン・ランファン・フーの話し方に特徴を持たせなかったことは良かった。

 

この映画シリーズ、良いようにおもちゃにされているイメージが拭えないが、私としては、本当にそこまでやるほどのことではないような気がしてならない。

 

SOTUS

タイYドラマの金字塔ということで、勉強がてら観た。本作は2016年放送で、この作品が以後いろいろ存在する「BLドラマ」の火付け役であるらしい。

そのため、表現として適当であるかは別にして、私はこの作品を「BL史にとって重要な作品」と捉えた上で感想を残す。

しかし、そうは言っても話がとてつもなくつらい。

「SOTUS」というある大学の工学部に伝わる、どうにもハラスメントでしかない伝統によって一年生が三年生を中心とした先輩に教育される仕組みがストーリーの大部分を占める。SOTUS制度の教官たるワーガーは男性のみで構成され、非常にマッチョな価値観のもと運営される。さらに恐ろしいのが、一年生たちは反発しながら徐々にこの仕組みに対して慣れていき、最終的には「学年の団結や自主性、秩序、年配者を敬う心」という制度の目的を美化し学年内で再生産していくことになる。

で、Arthit先輩はそのヘッドワーガーで、マッチョな価値観に基づきKongpob*1に「男が好き」と言わせたりする。そういうことをさせていた人が、同じ男性で後輩であるKongpobに惹かれて……というところに、恐らくこの作品の重要なポイントがあるのかなと感じた。

Arthitは過去初恋の人に対し友人として、現在はワーガーとして、先輩として、男性として、どのように振る舞うべきかという強い理想がある。このドラマが評価されるとしたら、そのArthitの意識の変化を描いたことにあるかなと思った。

またサブカップルが明確に存在するわけでもなく、KongpobとArthitの恋愛に終始したこと、男女のカップルも出てくること、「女性が好き」と言う女性が出てくることなどは良いことだと思う。

それに至るまでの細かい描写にはストレス(SOTUS制度そのものとその受容、Kongpobに頼りすぎるM、Praepailinにカミングアウトさせたり余計なことしかしないOak、最後の最後にセクシュアリティより勝る「彼だから好きになった」という価値観など)が多いのでかなり見ているのはつらい。

で、この作品は「BL史にとって重要な作品」として考えると、前述のような描き方を経て2022年現在の社会派BLドラマたちが生まれているので、まず何にせよ「作品がコンスタントに作られるための土壌」が必要となり、まさしく「SOTUS」がその役目を果たし、意義を持つ作品だと思う。

今、日本や韓国に来てるBLドラマ制作の波は、好意的に捉えるときっとこういう段階なのだと思う。作ればある程度のファン(BLファン、原作ファン、俳優ファン)がつくことが予測され、ブームが始まったばかり故に原案にも困らない。登場人物や規模感がかなり限定的でコストも抑えられる。将来的に、消費されるだけの一過性のムーブメントではなく、メッセージとエンターテイメントを持ったジャンルになれば良いなと思う。

そんな感じのことをこのドラマを見ながら思っていたが、最後にこのドラマのおもしろポイントを残しておく。

まず、古いドラマなのでカメラワークの洗練されてなさはあるが、それより音響がひどい。とくに雨の日などはマイクを仕込めないので音が全然聞こえて来ないのが面白い。あと、忖度シーンで出てくる商品が何故か海苔なので、作中ぽりぽりと登場人物が海苔を食べている。

 

以下、追記。

2022年6月6日付けの記事(ม.เกษตรฯ บางเขน ประกาศยกเลิกการรับน้องระบบ 'โซตัส')にてモデルの行事が全面的に停止になったと報道されている。実際に問題として認識されていることに関して、ドラマの内容を投影して「タイの伝統」であるとか「残念」とか「時代」とかの言葉で語る人たちもいたが、流石に冷静じゃなさすぎだろうよ。

*1:KongpobはそれまでのSOTUS制度の理不尽な点には懐疑的であるから、ヘッドワーガーを引き継いだ際には体罰や理不尽な要求はしないように変更している……らしい。