恒例の映画感想。今回はいろいろ皆さんに助けてもらった*1ので先行して2つ分の感想を公開していたが、追記した。
『鬼談百景』
『残穢』を観ましたからね、ちゃんと『鬼談百景』も観ます。
『残穢』のようなじわじわホラーが好きなので、これは映像ではなく本で読んでいるときのほうが好きだったなと思った。誰かが話し、それを聞いているスタイルを貫く方が好みだった。これはちょっと、在りし日の本当にあった怖い話のようだ。
怖さとしては、フォーカスされがちな『続きをしよう』と『赤い女』はもちろん怖いが、『影男』や『追けてくる』も怖い。
だが後味はそれほど悪くない。いろいろな怖い話をさくさく楽しみたい人向けだ。ちゃんと面白いと思う、変な言い方かもしれないが怪談に対してそのような表現が適切であるかがわからない。
個人的には、高田里穂ちゃんがケガしてなければいいなと思った。
『溺れるナイフ』
原作全く知らない関係上、的外れだったらすみません。
序盤のピアノのインストが同人ゲームみたいですごく良い。十代の全能感と夏の組み合わせがこの世で一番最高っていう話。全能であったはずの子どもが全能でないことに気付いて、恋から信仰のような依存関係*2になるのがストーリー的にどうにも我々のように自己をこじらせた人間には好みだと思う。目に映る全部が自分のもので誰しもが頭の上がらなかったコウの前に来た、初めての美しい異物夏芽ちゃん。舞い降りた神さんみたいに見えたでしょうね。
し、重岡〜〜〜〜元気モリモリCD私も欲しい〜〜〜!!大友が永遠に陽で、夏芽ちゃんが普通の女の子でいられた時にはいつだってそこに大友君がいた。大友君最高です。最終的にコウの神さんであることになった夏芽ちゃんだけど、でもそういうことを求めなかったのが大友君だった。でも夏芽ちゃんに植え付けられた苦しみを殺すのはコウなんだよな、信仰による癒しのプロセス……。でもわたしは大友のことが好きだからな、大友君もよくわからないクラスメイトの女子とかに勝手に神聖視されて、「大友君はそんなこと言わない」とか言われてストーカーされそうじゃないですか?わかりませんけど。でもそういう明るい男の子のことを神聖視して病む女がわたしだってことはわかるね。
コウの神秘性は、なんていうか、役者によるところが大きく見えるというか。前述のとおり夏芽ちゃんが浮雲に降り立った時にコウに与えた衝撃は理解できるし、夏芽ちゃんがコウという少年に惹かれる気持ちもわからないでもない。が、それは「コウという神秘」というよりは「コウという野蛮さ」=東京都はかけ離れた土地の象徴、夏芽ちゃんの視野の広がりのきっかけみたいな風に感じた。これはおそらく、本来のストーリーの筋からは逸脱した感じ方*3なのではないか、と思う。その辺はなんというか、コウのバックボーンを描かなかったことに由来してそうに思う。W主演というけれど、主役は夏芽ちゃんだろう、これは。
わたしはカナちゃんがうすら怖い。わたしはカナちゃんが踊り場で夏芽ちゃんを呼び止めた時、この子が何か夏芽ちゃんの脅威になるのではないかと思ってしまった。それほどまでに進学までの間の様変わりが見事だった。彼女も屈折しているけど、コウが(夏芽ちゃんへの)信仰のために殺した男を共に沈めるのだから、彼女はコウにこれからも近くあるだろう。中学時代の彼女が夏芽ちゃんならと思った地位に、もしかしたら収まるのかもしれない。そういう怖さがあった。彼女は夏芽ちゃんのことも(芸能人として)好きだし、(コウを神様でなくすものとして)嫌いだったんだろうなあ。
ペディキュアからお見舞いの「お洒落さんやね」良かった。わたしも青と赤に塗ったろかと思ったけど、爪見たらブルーグレーに塗ってたのでやめました。
ハッピーエンドが見たくて見始めた映画だったけど、確かにこれはラブとしてのハッピーではないし、この後のことを考えたらより事態が悪化することもあるのかもしれないがこれはこれでハッピーに次に進んだでしょう。
あとロケ地は全く我が地元とは関係ないんですが、わたしも海のそばで生まれ育った身なので、言いようのないノスタルジーを感じました。
『グランド・ブタペスト・ホテル』
可愛くて、美しく、おしゃれな人たちがたくさん出てくる。可愛くて美しいコメディーだった。私は好きです。
昔話の中心はお菓子のような色彩の中にあって、民兵らのグレーが異色で、つまりはまあ戦争の影が迫っている不穏な時代だ。可愛い世界観の中で幸せに彼らが暮らしました、で終わらない苦いところがあるのが良いと思う。ものすごくネタバレだが、ラストでの栄華の終わりのシーンはモノクロだ。これを語るゼロ・ムスタファにとっては、その時栄光の一つが確実に終わったのだろうなと思う。
話の進みや、人物は淡々としている。どちらかと言えば展開がいろいろと畳みかけるように続く中で、あまり人物の表情などを強く主張することはない。面白いのはちょこまかと動いていく話や人物、映像の可愛さだ。
基本的にはミステリーで、マダムを殺したのは誰かという話なのだが、そんなことはまあもうすぐわかるので、とにかくそのちょこまかした展開を楽しむんだろう。
町山さんが紹介したとのことでインターネットには考察や解説がたくさんあり、詳しくはそれを見てもらうとして、私はこういう、ストップモーションアニメみたいな映画は好きです。
『ルビー・スパークス』
展開の可愛い映画が観たかったので。
理想の女の子について書き始めたら理想の女の子を生み出してしまったという、とんでもないけどどっかで聞いたことあるしなんなら考えたこともあるよねという映画。
主人公カルヴィンはめちゃくちゃめんどくさい男*4だ。ルビーが理想の女の子であることを喜び、理想の女の子として振る舞えないことを認めない。人によってはカルヴィンに対して暴力的だという感想を持つだろうと思う。実際そのように感じる箇所がある。
だが一日の大半を空想に費やしているような人間にとって、もしくは誰か推しのいる人間にとって、カルヴィンの行動は簡単に責められるようなものでもないと思う。そういう人は日常的に、理想を見ていると感じたので……。
最初の、恋が始まったばかりの幸せそうな二人がとても可愛い。相手が自分の思うとおりにならない自分の思うとおりにしたいというような独占欲に振り回されたり、振り回したりする終盤にかけての展開はファンタジー要素も相まってひりひりした。元カノや自分の行動によって突きつけられる自分の身勝手さがつらい。
全体的になんていうか「ふつうの」恋愛という感じの映画で、私は結構楽しめたし、二人の幸せを願えたのでラストも好きでした。
『エヴォリューション』
ホラーっぽい映画が観たかったのだけど、「猛スピードで迫りくる危機!」みたいなホラー*5は苦手で、ジワジワ薄気味悪い方が好みだ。
海というのはどうにも、物理的な断絶や母性の象徴、あるいは未知なものの象徴として使われることが多いし、この映画もまたそうなんだと思う。
ニコラだけがどうして生きながらえ、海の向こうに逃げることができたのか。ステラだけはどうしてニコラに手を貸したのか。たぶん、全ては怪異ではなく比喩なのである。
何度も登場する星型の──ヒトデも、ステラ(星)という名前も含めて──モチーフは宗教(とりわけ、キリスト教)を想起させる。星が輝く時、賢人は救世主の誕生を知る。
ニコラが流れ着く文明社会で、強く元気に生き抜いて欲しいなと思った。
それはそれとしてお腹の痛くなる映画だった。