サニーサイドアップフォーチュン

映画、特撮、演劇、ダンスボーカルグループ

感想『ソン・ランの響き』『初恋』『サヨナラまでの30分』『ミラベルと魔法だらけの家』

ソン・ランの響き

始まってすぐ一つの終わり方が予想付き、そのままその予測を裏付けるような出来事が起き、リンの語る言葉でどんどんそれが現実味を帯びていくどうしようもない退廃的な雰囲気と、一方で出会いがユンとリンの凝り固まった悲しみを淡く溶かして、希望や夢が緩やかに輝き出すのが美しい映画だった。

リンはおそらくこのまま、ユンが自分の言葉の通りに生きようとしたことや、また自分が両親と同じように人を喪ったことに気づかないのだろうと思う。リンの子ども時代の憧れと両親へのノスタルジーの象徴であるキーホルダーも、ユンが全部持ってリンの前から消えたのだから、結果的にリンの悲しみは過去のものになりユンとの別れは"豊かな人生経験"の中の一つの失恋となるのがつらい。ユンが子どものために罪滅ぼしをしたことも、本当は別の道で生きたかったことも、ユンにとってはこれからの話だったのにユンの「これから」の象徴であるリンにとっては全部過去の出来事になっちゃうんだ……。

ごちゃっとした80年代サイゴンの、湿度と彩度が高く明度の低いロケーションが素晴らしい雰囲気。二人の出会いや感情も、仰々しい運命の出会いではなくてゆっくりと解けていくのが良い。LGBTQ作品として評価されているけど、私としては「作り手がどう見て欲しいかによるな」と思うくらい印象で、私がその方面で何か感想を残すのは難しい。けれどユンが女の子とと寝るのは床なのにリンに貸すのはベッドなのが、ユンにとって「リン」が特別とも「カイルオン*1の役者」が特別とも受け取れるシーンだったなと思った。

 

初恋

面白かった〜!こういう混沌とした群像劇はただひたすらに楽しい。どうせみんなロクな終わり方しないと思って観始めるからレオの普通のヒーローさとかモニカ(ユリ)のかわいさとかが際立って感じて良かった。何も知らずに女の子のためだけに極道と中華マフィアの抗争に巻き込まれることになる窪田正孝、本人が厭世的なビジュアルしているが故に夜が良く似合う一方、優しくてかっこいいヒーローであり続けてるのがいい。どうしても昼の世界に戻って欲しかったので、素手でベタベタあちこち触りまくることをすごく心配したけど、そういう映画じゃないな……。

染谷将太が可哀想になるくらい想定外が重なる中で、私の中の成田良悟ライトノベルで育った部分がワクワクして仕方なく本当に楽しかったし、随所盛り込まれたギャグシーンも面白いのだがベッキーがボンネット飛び乗って来るところで声出して笑ってしまった。この映画の感想で五万回くらい言われているとは思うんだけど、ベッキー*2が本当に良い。血は出るし人は死にまくるが、この映画は「面白い」という中の方向性をなるべく網羅して出来てる感じがする。

最後突然アニメになるところは賛否あるのかなと思ったが、法と予算とロケーションと車が揃っていたとしたら実写でやったのかなと感じて、別に実写でやらないからと言って脚本まで変えたりしないみたいな頑固さを感じて私は好きだった。

 

サヨナラまでの30分

ベタで何が悪い、ベタが今まで繰り返されてきたのはそれが「良い」からだろというのを全力でやってくれる映画だった。音楽良し、ロケーション良し、そしてもちろん役者良し。最初のアキとメンバーたちのMVみたいな撮り方も良かったし、颯太とアキの言い合いのシーンの撮り方もそのMVの延長っぽくて良かった。ずっとバンドのMVの雰囲気を保ち続けているし、すごく爽やかな味がある。

北村匠海のなんでも出来る魅力が、器用さが活かされた映画でもあり、新田真剣佑がカリスマであることを最大限に表現した作品だった。

この曲とか本当にすごくて、北村匠海の歌の高い声とか、綺麗さを聴いていると、途中から真剣佑の声に全部持っていかれる。

アキが嫉妬や寂しさから颯太と揉めてしまうのかと思ったけど、アキがいい奴すぎてそんなに複雑に揉めたりしないし。颯太もまたアキが邪魔になって拒絶するのかと思ったけど「上書き」を拒む優しさを見せる。バンドメンバーは夢のためにまた努力できるピュアさがあり、一本見ると非常に浄化される作品だった。

ラストの、アキが颯太の体で颯太として話して、颯太としてステージに上がるところでちょっと泣いてしまった。

 

ミラベルと魔法だらけの家

なんか良くわからないが一曲目から号泣してしまって自分自身にウケていた。とにかくミラベルが健気で、私が奇跡のギフトを授かる家に生まれて何も力を得ることができなかったら多分グレるか、引きこもるか、すぐに家を出るかのどれかだと思うのだけど、ミラベルは家を愛し家族を愛している。まずそれが一つ奇跡だと思った。家族だからいて当たり前、して当たり前、そういうことではないんだ*3というところが良かった。

ミラベルが本当に可愛い。豊かな黒髪も丸くて幼く見える輪郭も、大きな目がとても印象的で、とにかく素直で一生懸命。彼女の幸せを願いたくなるかわいさ。色合いも曲も良いし翻るスカートも良い。

マドリガル家が奇跡を授かったのは、きっとおばあちゃんがあの場で夫を亡くし子供たちを守るという決意を固めたからで、本当は彼らでなくても良かったのかもしれないが、町名主や守護者としてきちんと機能する人選で良かったなと思う。

*1:ベトナムの伝統的な大衆演劇

*2:私は彼女の色々に関しては彼女ばっかり今もネタみたいに言われるのに納得いってない人間。

*3:しかし愛して当たり前なのはディズニーなので仕方ない。