サニーサイドアップフォーチュン

映画、特撮、演劇、ダンスボーカルグループ

感想『僕もアイツも新郎です。』

配信期限日を一日間違えており滑り込みになった。あぶねー。

僕もアイツも新郎です。

youtu.be

配信期限日を間違えたことにより、見直しながら感想を書いたり出来ておらず、急ぎの視聴のため実況もしていない。記憶の齟齬があったら申し訳ない。

 

さて、ドラマ本体の話に移る。

亮介(演:葉山奨之)・瑞樹(演:飯島寛騎)、つまり主役二人は魅力的だと感じた。隼人(演:小笠原海)含めて、この三人のラブコメドラマ作品としてのバランスはとても良いと思う。明るく八方美人で誰にでも優しい亮介と、真っ直ぐで儚く自罰的な瑞樹、そしてミステリアスで愛が重そうな隼人とわかりやすく表現出来るし、ビジュアルも三人とも被らない。瑞樹と隼人の話も見たいなと思った。隼人は短尺のドラマのためキレてるばかりになっているが、元恋人でありながら式に呼ばれるわけだから瑞樹の過去の大きな部分を占めると思う。これがもっと12,3話あるようなドラマなら隼人の相手になるであろう歳下の金髪*1が出てきてもおかしくない。そうなれば隼人の幸せな恋──瑞樹のいない世界での幸福──があったかもしれないのでそれはそれで見たい。

主役二人である亮介と瑞樹の出会い・馴れ初めの良さはちゃんとときめく仕様になっており、それに伴うキーアイテムの使い方にちゃんと話を回収しようという努力が見える。また「瀬戸内海」というロケーションとそれに伴う環境としての問題も織り込んでいて、それを話の流れに取り込んである。ちょっとこなさなければならないタスクが多くなってしまって、全体として説明的になっている印象もあるが、瀬戸内海という舞台と二人の職業をちゃんと活かし意味を持たせるのは良かった。有名観光地を巡るばかりがご当地ドラマではない。そもそも、単純に景色が美しく、素晴らしい。

亮介と瑞樹の出会い、本当に良かった。元恋人からのプレゼントを二人で探し、それが瑞樹の中で亮介との思い出に上書きされるという恋の始まり方が良すぎる。馴れ初めも、それまで自分のアイデンティティに対して結論を持っていなかったが故の必死さというような感じがして私は好きです。

この、亮介の「クエスチョニング」あるいは「クィア」に近い自認のスタンスと、それに伴う終盤での不安の吐露が割と私の中で響いていた。亮介のスタンスと私自身へのアイデンティティの共感と代弁である。「LGBT」というテーマがあっても、「Q」に近いものを扱われるってそんなにないと思う。

幼馴染の瑠璃が「どうして言ってくれんかったん」と言うのはあの場で失恋した女の子としてはあるのかもしれないが、その話でまた一話分くらいの分量取れるなと思った。これを言えないから当人は悩むし、亮介はさらに結論を持っていなかったのであるから、瑠璃がそれまでと瑞樹と出会って以降の亮介の差を知るということだけで非常に重要だと思う。少なくとも、共感もされないであろうことを誰かに話すことは、非常に勇気がいることだと私は感じているので。

教頭先生がアライのように振舞いながらも、無意識化の差別表現を露呈させたり、女装か面白いと考える価値観をさらけ出してしまうところなども、ありがちなことやりがちなことであると思うので、良かったと思う。

あとは単純に、短い時間で大団円に持っていこうとするところの努力は認める。教科書的な説明台詞もあるが、そういう大事な情報を交えつつ二人の物語としてなるべく幸せなエンディングを目指すことは、悪くないことだと思う。

 

そもそもだが、厳格な父親が挨拶に来ない人間との結婚を認めるのかというところがある。

このドラマは一時間──実質50分程度しかない中で決着を迎えなければならないし、回想はあれどワンシチュエーションのため、「結婚式」のさなかに起こる事件の連鎖のためにはそうならざるを得ないのだけど、どうにも「厳格な父親」というキャラクター設定像との矛盾があるように感じる。

そしてこの厳格な父親(亮介父)を諭すアライの父親(瑞樹父)の「寛容」という言葉への違和感と代替する言葉の思いつかなさ、「両家の代表」という言葉への決まりの悪さがまた微妙な気分にさせる。「寛容」というのは「ひろく受容する」ことだと思うので、こういう「容認」に近い考え方ではないのではないか……と感じる。結局は母を欠いた状態で父同士の結論となり、確かに父同士の喧嘩の決着ではあったかもしれないが、家庭の中の不和としての解決とはまた別だろうという気もする。

亮介のアイデンティティについては上記の通り、共感を持って見ていたのだけど、それはそれとして瑞樹のためにそれを叫ぶ演出になっているのがちょっとキツい。カミングアウトを大勢の前で叫んでいることがキツいのではなく、なんでもとりあえず大声で告白させればなんか良い雰囲気になる……みたいな、演出の手法としての肌に合わなさである。大勢の前で告白することになってしまった経緯は仕方ないと割り切るしかない。この作品は50分しかなく、父や瑠璃に対して亮介が説明して回る時間はもうないのだから。そういう合理性・演出の観点からだけでなく、アイデンティティについて大勢に告白させるというストーリーと、それが問題を解決に導くという理想のエンディングの在り方が、あまりに亮介や瑞樹の人生に対し他人事であるという風に考えることもできるわけだから、やはりあまりいい選択ではなかったのではないか……と思ってしまう。

ここまで式として崩壊しているのであれば、無理に決行しなくても……よりミニマルな解決を図った方が順当では……と思ってしまうのは視聴者だからだと思う。

最後に、これは本当に小さなことだが、ピアスを探して汚れたはずのタキシードのままではなく、ちゃんとお色直しをしてエンディングの式を迎えてほしかった。

*1:私の中でありそうなサブカップルを考えたらこれだった。