サニーサイドアップフォーチュン

映画、特撮、演劇、ダンスボーカルグループ

舞台『管理人』感想

管理人

とにかく全くスッキリさせるつもりのない戯曲だった。だんだん話が進むと「痴呆老人に振り回される気の良い兄と短気な弟」なのかなという自分の予想を裏切っていくので、変化を考えながら見るお芝居だったように思う。さらに三人芝居ということでセリフ量が圧巻で、しかもどのセリフも聞き取れないということがないのが本当にすごい。

荷物を増やしたくないという理由でパンフレットをサボったので、見当違いなことを言っていたら申し訳ない。

見た感じ、兄は自分が精神病であることを認めておらず、自分はまだ一人で色々なことができると思って(思おうとして)いる。弟はそうではなく、兄には介助なり何かに取り組むようなことが必要だと思っている。兄は自分が精神病であることを他人に指摘されることが嫌で、弟は兄が精神病であるが故に軽んじられることが建前上では嫌……という情緒がこんがらがった兄弟のところに、「老人の耄碌」を意図的に利用する矍鑠さを持った男が転がり込んで振り回される、という話と解釈した。

老人は行く当てがなく、彼を拾ってきた兄は「自分よりも老いていて困っている(行く当てがない)」というところにおそらく安心をしていて、老人は移民を差別するのと同じように兄の精神病に対して見下し、弟は兄が自分の持ち物である家の中で暮らしているということに満足感を得てるんだと思う。なので、弟は老人が異物として鬱陶しいものであったり、もしくは自分の利益になる動きをどうやらしないとわかった時点で切り捨てようとするんだと感じた。

弟の不思議なところは、意図的にその結果を導くために全ての会話を行ってることだと思う。私の中では木村達成さんの理知的な印象故か、どちらかと言えば意図的な雰囲気が先立つ。意図的に自分の“一般的な感覚で”突かれたくない家族(兄)のことを非難させ、それに対してあたかも自分が正当性を持って老人を糾弾しているように老人に思わせる所があると思った。老人からしてみればあまりに不条理な仕打ちだと思う。弟には兄や老人と違って社会の構成員としての苦労があり、そのストレスの捌け口を自分より弱者でありかつ自分が責任を負う必要がない老人に対して見出しているような部分もあると思う。

兄はもうとにかく自分のことにいっぱいいっぱいで、なにかを社会的に成すことから降りてしまい、序盤から精神的な問題っぽいものを感じる。自分と他者の線引きに対して自分と物の違い程度の感覚でいるのが最初からどう見ても歪なのだけど、入野自由くんがあっちこっちで話していた3ページ分の長台詞によってそれが明かされるところ、本当とても良かった。また兄弟には会話はなく、兄は弟の見せる態度をほぼほぼそのまま鏡写しにするだけなので、結局は兄が弟の庇護下にあるというのが印象に残る。精神病であるが故の波に左右され、優しい青年と無感情の間を移動している兄の不安定はまさに不条理だったと思う。

老人は自分が老人であることを武器にしている雰囲気があり、一方で年相応に老いているということを認めないようでもありというバランスがあったと思う。イッセー尾形さんのお芝居によって時に滑稽に、時に理不尽にそれを感じることが出来た。老人の仕草に対してちょくちょくみんな笑ってたのもよかった。