サニーサイドアップフォーチュン

映画、特撮、演劇、ダンスボーカルグループ

舞台『夜叉ヶ池』感想

夜叉ヶ池

耽美さや幻想的さというよりはちゃんと怖さを描いており、人ならざるものの不気味さや、人そのものの醜悪さの物語だった。全然女性キャストがいないので何故と思っていたが、終盤の男性が女性を害そうとする展開に対し、女性を混ぜたくなかったのかなと思った。定石として、そもそもこういう時代に誰かを害そうとなれば、追いかけるのは男性であろうし。今見ると当然に古臭いところはあるが、それでも荻原と山沢は頼りになる良いコンビだ。

また、ちゃんと怖がらせようとする妖怪たちの演出と、演じる人間の身体というものの芸術性と生々しさを感じるコンテンポラリーダンスの演出が、どちらもしっかりと気味が悪くて良かった。突然大人数の妖怪たちが板の上に現れるシーンなどは音響も相まって結構ちゃんとしたジャンプスケアでもあり、人間の身体の表現で見せる気味の悪さと、そういうホラーの定番っぽい演出が上手い。あとPARCO劇場の作り的に、客席の傾斜がきつくてかつ舞台そのものの高さが低いから、最後の演出が大変よく似合うと思う。

原作読まずに観たので私の責任ではあるのだけど、使われている言葉やセリフは原作の泉鏡花の表記ままという感じでかなり難しい。ロビーやホームページ使われている言葉について説明があるので、そこを読んでおくと良いと思う。分かりやすく書き下したりしなかったんだなという印象は終始あり、耳が慣れてくるとはいえ苦労する人はする。元となった戯曲そのままではあるので、これも好みの問題とは思った。幕開いてすぐは割と演者がその戯曲をなぞってるなという印象が強いのだけど、登場人物が増え環境がさらに変化していくと、戯曲の文章にテンポが生まれてきてどんどん良くなる。荻原と百合の予定調和的な穏やかな空気が、山沢の登場でガラッと変わり、白雪姫が出てきてさらに面白くなっていく。

これは全然内容と関係ないが、『夜叉ヶ池』の主人公は「晃(あきら)」で、『草迷宮』の主人公も「明(あきら)」である。泉鏡花にこだわりを聞いてみたい。