サニーサイドアップフォーチュン

映画、特撮、演劇、ダンスボーカルグループ

感想『アナスタシア』

アナスタシア

キャストが多い作品なので演者周りの話は意図的にカットしております。

とてもとても楽しい公演だった。脚本もいい、セットもいい、衣装もいい、演出もいい、そして何より歌がいい。良いところまみれで本当にあっという間の時間だった。元になった映画は子どもの頃に観たことがあってあらすじは知っていたのだけど、それでもアーニャの自分探しと恋の行方に胸が高鳴る。色褪せない素晴らしい脚本だと思った。

ファンタジー作品として、革命の事実はかつてあった栄光を断絶するものとしては存在するが、その革命における辛さは「ある一家の死」と「一家に向けて引き金を引いた」というところにフォーカスされ、「断絶させるもの」というような表現に思う。アナスタシアは子どもであってそこに責任を求めるのは難しいと思うが、ロシア皇后アレクサンドラのラスプーチンへの傾倒などがごっそりカットされていて、革命に対する悲しみは家族を失うことへの悲しみにすっきりと整理されている。また、王朝というものについてかなり懐古趣味的で栄光の象徴として見ているところは、革命に至るまでの流れが無い以上仕方ないが、ファンタジーだなと思う。こういう扱い方に関して良し悪しはあるかもしれないが、今回のストーリーにおいては苦しみの所在がすっきりしていて良いのかなと感じた。アニメ映画にはラスプーチンいたらしいです、覚えてないけど。

歌がすごい良いのはもちろん、流れとしてもスムーズだしストーリーが歌と共に進んで行くし、本当に観やすいミュージカルだった。アーニャがわずかに残る記憶に突き動かされているのであって、初期ディミトリの「一儲け」とは別軸の「チャンス」なのが緩やかに混ざり合って行くのが本当に美しいロマンスだと思う。アーニャがプリンセスであれば家族を見つけルーツを知ることができるし、ディミトリには報奨金が支払われて現在の暮らしから脱却できるし、お互いがお互いの夢のためにだんだん頑張り始めているのが愛おしくなる。

グレブと二人の違いも良くて、グレブがひたすらに父を信じ父の果たした仕事に誇りを持つことで父の子である己を損なわないようにしている一方で、ディミトリは父親が自分を置いて親の役目をさして果たすことなく死んだとしても父を好きで、父から教わったことを大切にしていて、アーニャにとっては「父の子である」というのが取り戻した尊厳そのものである。グレブが父親のしたことから離れることで(アーニャを見逃すことによって)革命を終わらせたのがすごくスマートで良かった。グレブもまた革命によって家族と断絶した存在で、単なる悪者というわけではないんだと感じる。

あと、映像の演出がたくさんあるのだけど、どれもこれも美しくて好きだった。最初の革命の瞬間などは照明・音響あいまって大変恐ろしいシーンだった。