サニーサイドアップフォーチュン

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感想『リア王』

リア王

教養がなくシェイクスピアを観た経験がほぼ無いのだが、内容としてかなり全方位に辛辣であり、また父親たちがかなりどうしようもない感じがあるので子供たちがそれに対して反抗し行きすぎた行動に対して正当な裁きを食らうという点は強く読み取れた。じゃあ比較的従順で貞淑であったコーディリアやエドガーが都合よく救われるのかというとそういうわけでもなく、親に期待されて散るし、親という拠り所を失う。とはいえコーディリアとエドガーに対してあんまり愛着を持たされる演出じゃないのは良いのかなとは思う。あの場で急に淡々と「何も言いません」みたいなことを言い出すコーディリアは権威主義的な親の性格をまるで理解しないまま冷たく突っぱねているように見えるし、エドガーも弟に対して無関心で来たことへの報復のように思えるので浮浪者の芝居に対してそんなに悲壮感がない。あの二人は観客にとってストーリー上の光明になるのかと思っていたので、全然そういう気配がないことに対して「そういうものか」と思った。なので私の印象としては、全方位に辛辣な悲劇の名に相応しい重苦しい話だな、という感じです。

演出はかなり渋い感じというか、無機質さを全面に押し出していて全体的に主要登場人物の衣装や小道具、舞台上の印象がレトロな現代になっている一方で、筋書き──特に騎士団の存在や衣装、最初にエドマンドが取り出したスマートフォンらしきものが全く活かされないところなどは古いままだし、(照明のリモコンだった)唐突に出て来て唐突に去る道化なども恐らく戯曲の通り唐突なんだろうなというのが想像でき、そういうチグハグさに対して解釈を委ねている感じだった。無機質な展開が続く中で血糊などが出て来てリアルタイムで演者や衣装が汚れていくため、一定のタイミングで生々しく「目の前のものは人間という物体」であることを表現するため、周りの席のグロが苦手そうな人は結構つらそうだった。あとはそもそもその無機質さや、わかりやすく劇的さを求める作りになっていないことで、長いなとは感じる。演者についている演出の感じも本人の巧さみたいなのを感じる一方で「生き生きと」しているタイプではないと思うので、戯曲の筋書きがなぞられるばかりに思い、小劇場でやる不条理劇みたいな乗り切れなさみたいなのも残る。ただ剥き出しのライトや散らかって行くばかりの板の上はそれはそれでドラマチックであると思う。

個人的にはストーリーは結構ちゃんと楽しめたというか、なんというか「戯曲そのもの」について淡々と追って行く流れに、リア王初見の自分がついて行きやすかったというのがある。

あとこれを読んでいたので、それも良かった。

あらすじで読む シェイクスピア全作品 :BOOK SHOP 小学館

入野自由くんのコーンウォール公爵もすごくブチ切れてて良かった。玉置さんとの主従関係も熱い、個人的な感情として。

 

追記

後半日程観てきたので追記する。悲劇とはいえ笑いどころが用意されてるので周り結構笑ってて、私は割とこういう内容の中で笑うってうまく出来ないのでスン…としてしまった。ずっと重苦しいままでいろという意味ではなく、急に差し込まれることに対して乗り切れない。

自由くんのコーンウォール公はどんどんヤバさを増していて良かった。顔に返り血浴びたりしており。